交易が陸路ではなく、海路に
「国境再開は来年3月以降になるかも」という貿易関係者の覇気がない声が聞こえてくるのは、中国遼寧省丹東の貿易関係者たちだ。国からの支援が乏しく、貿易会社の多くが物販事業などへの業態転換を余儀なくされたり、リストラをしたりして、生き抜いているようだ。(筑前サンミゲル/5時から作家塾(R))
新型コロナウイルス蔓延前まで中朝貿易全体の7割を占めていた丹東は、常に注目される国境の街だ。10月末、韓国の国家情報院が、11月にも丹東から北朝鮮への国際列車が再開される見通しであると発表するも、現時点でも再開されたとの情報はない。
毎月、中国税関総署が、中朝貿易の総額を発表している。それによると、9月の中朝貿易総額は、6990万ドル(約79億6000万円)で2021年最高額を記録した。しかし、10月は約4割減の4178万ドル(約47億9000万円)と減少している。それでも月別貿易総額では、今年2位となった。
細々ではあるものの、中朝貿易が行われているにもかかわらず、丹東で貿易についての話題が、まったく聞かれないのはなぜか。その理由は、現在、ほぼすべての交易が陸路ではなく、海路の貨物船によるものとされるからだ。貨物船は、山東省と北朝鮮平壌の外港・南浦を結んでいる。
政府の発表や数字を疑っている?
丹東の国境開放が延期された原因の1つに、11月上旬、大連での新型コロナウイルスの陽性者確認が考えられる。
国際報道では大連市と報じられたので、日本人も多く住む大連中心部で陽性者が確認されたと勘違いしそうだが、実際、陽性者が確認されたのは、大連の中心部から約175キロ・メートル離れた庄河という大連広域市を構成する市だった。
庄河と大連中心部は、175キロも離れているので、当然ながら別経済圏であるが、大連市民は飲食店の営業停止やイベントが中止になったり、行動制限を受けたりと、生活に支障が出た。制限は12月4日まで続いたが、1カ月ほどで解除された。
実は、この庄河と丹東は約145キロと丹東のほうが地理的にも近く、しかも、同じ旧満州国だった歴史的経緯から、現在も経済的なつながりは大連中心部よりも丹東のほうが強い。
当然、人的な往来も多い。丹東ではこの間、陽性者はゼロ発表だったが、丹東在住の北朝鮮の人々は、中国当局の発表を信じておらず、丹東にも新型コロナの陽性者はいると認識して、本国へ報告していたのではないだろうか。
中国に在住する北朝鮮の人々は、中国政府の発表や数字を疑っているという話は、北朝鮮の人々と直に接する中国朝鮮族からもよく耳にする話だ。
来年2月に冬季五輪…オミクロン株の話題にセンシティブ
13日、国営の天津日報は、入国者からオミクロン株の初陽性者が確認されたと報じた。中国は、来年2月の北京冬季五輪・パラリンピック実施に向け、オミクロン株の話題に非常にセンシティブになっているようだ。
中国のSNSを見ると、日本や米国、欧州などのオミクロン株の感染状況は、速報で豊富に発信しているが、「中国国内にすでに持ち込まれたのではないか?」「蔓延するのでは?」というような投稿は確認できない。厳しく検閲の目を光らせているのだとみられる。
中国は、中国共産党の下に憲法を置き、人民解放軍も党軍という特異な国家構造をしている。事実上、中国政府は中国共産党の下に位置する。そのため、新型コロナ対策もあらゆる統計もすべて中国共産党のための内政の道具という側面が強い。
現時点でも中国ではゼロコロナ政策として、入国時20万円ほど前払いで28日間の強制隔離(大連の場合)を受ける。これは中国人も同様の隔離を受けるので、ある意味、平等と言えるが、感染対策よりも内政利用の意味合いも強く、中国人の出国者を減らす心理的な効果も生み出している。
「無事に春節を迎えることができるのか…」
国境開放の情報がない丹東であるが、入国時の28日間隔離が緩和されるのは、早くても北京五輪後になるという。中国政府としては、強硬なゼロコロナ政策を簡単には転換できない。対外的なメンツを重視する中国では、一度振り上げた拳は簡単には下ろせないからだ。
そうなってくると、国境が再び開かれて、丹東で中朝貿易が本格再開されるのは、来年3月以降という関係者たちの話となるのだ。
「無事に春節を迎えることができるのか…」丹東の貿易関係者たちは、北京五輪よりも先が見えない現状へのぼやきが、まだまだ続きそうだ。(筑前サンミゲル/5時から作家塾(R))