愛され続ける“頑固”な個性
そんな時代にフルモデルチェンジされ、登場した9代目アルトは、頑固一徹に軽自動車セダンの姿を守り通した。全長と全幅は例外なく規定ギリギリだが、全高は1525ミリ。積木を重ねたように上に上にと伸びるスーパーハイトに対抗するかのように、安定感あるコンパクトボディで登場したのだ。
社内でも、「ワゴンRとボディを併用したらどうか」という意見もあったという。たが、徹底的な市場調査によれば、スーパーハイトでは所有できない層が一定数いることが確認。つまり、アルトがコンパクトボディでいることの意義が確認できたという。
もっとも、全高はスーパーハイトより低い1525ミリといえども、先代に比較して50ミリも高い。それにより、ドアの開口部も天地に広く、乗降がしやすい。着座した姿勢でも、頭上に広々とした空間が残されている。スーパーハイトに慣れたユーザーでも違和感なく溶け込めるディメンションである点が興味深い。
それでいて低価格も魅力である。ベースモデルは94万3800円からだ。最上級のハイブリッドXでも、137万9400円に抑えられている。価格ゾーンでライバルのダイハツ・ミライースは装備を簡略化したことで数字の上での最低価格としているが、エアコンやパワーウィンドウ等、おそらく組み込むであろうオプションを加えれば十分に価格的戦闘力はある。
それほど安価に抑えていても、リチウムイオンバッテリーを搭載。スターターと発電機を兼ねるISG式のマイルドハイブリッドとしている。WLTC燃料消費率は27.7キロ/リットルとクラストップの数字を叩き出しているのだ。
アルトは42年間もの長い間にわたって国民車として人気を得てきた。おそらくこれからも愛され続けていくに違いない。そう思う。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。