音楽ホール、ショッピングモールで観戦いかが 「みせる」スポーツ浸透

    昨年の東京五輪・パラリンピックを追い風に、「試合をどうみせるか」が、スポーツ界の新たな課題となっている。新型コロナウイルス禍で離れた観客を呼び戻す狙いもある。従来では考えられないようなユニークな会場で試合を開催したり、競技時間を思い切って変更したり…。これまでにはなかった発想で魅力を発信しファン獲得を目指す取り組みが、さまざまな競技で加速している。

    音響効果抜群

    日本列島を寒波が襲った昨年12月27日。大阪府貝塚市の貝塚市民文化会館「コスモスシアター」には、月曜日の夜にもかかわらず、400人を超える観客が訪れた。卓球のノジマTリーグ女子で4連覇を目指す「日本生命レッドエルフ」が「トップおとめピンポンズ名古屋」を迎え撃つ試合が開催されたからだ。

    今季で4シーズン目を迎えるTリーグの試合はこれまで、ほとんどが体育館などの体育施設で行われてきた。日本音響家協会の「優良ホール100選」にも認定された同シアターのようなコンサートホール型施設で公式戦が開催されるのは、関西初。ライトアップされた舞台の上で、「日本生命レッドエルフ」に所属する東京五輪代表の平野美宇選手(21)や世界選手権銀メダリストの早田ひな選手(21)ら人気選手が熱戦を繰り広げる。観客らは白熱したラリーに息をのみ、鋭いスマッシュが決まると事前に配られていた応援グッズを打ち鳴らして喜んだ。

    コンサートホール型施設の特徴は、階段状の客席から舞台上が見やすいこと。今回は舞台の中央に卓球台を横向きに設置し、奥側に両チームのベンチや大型ビジョンを配した。関西最大級の広さがある同シアターはさらにスペースに余裕があり、両脇には仮設の応援席も設けられた。

    コンサートホールだけあって音響効果もよく、選手の入場や応援ソング披露といった試合以外の演出でも、体育館とは異なる盛り上がりをみせた。

    昨年8月にテストマッチを行うなど、綿密に準備してきた「日本生命レッドエルフ」の西島善俊部長(53)は「(練習拠点の)貝塚市では毎年、Tリーグの試合を開催しているが、体育館よりも広い施設はないかと探していた。試合に必要な設備一式を舞台に置けるかが課題だったが、十分なスペースがあった。照明もコンサート仕様だと片方だけが明るくなって不都合なので、施設の担当者から助言をもらい、上から光が当たるように工夫した」と振り返る。

    選手にも好評

    27日の試合は「日本生命レッドエルフ」が4-0で完勝。翌28日に「九州アスティーダ」と対戦した試合も3-1で勝って女王の底力を発揮した。試合後に舞台上から観客にあいさつした村上恭和総監督(64)は「(ベンチが)客席の方を向いているので、観客の反応も分かる。貝塚市で試合をするときは、この会場でしたい」と絶賛した。

    選手にも好評で、「(観客席との間に)段差があるのは、なかなかない。どういう感じになるかなと思っていたが、新しい挑戦をすることで、Tリーグをもっとたくさんの人に見てもらえたらうれしい」と平野選手。早田選手は「新鮮な感じでプレーをお見せすることができ、勝ててよかった。(卓球の試合観戦は)横から見る形だと、台の長さとかが分かりやすいと思う。選手からどういうサーブのボールが出てくるのかとか、楽しんでもらえたら」と感想を話した。

    来たくなる仕掛けを

    東京五輪で卓球は混合ダブルスの金をはじめ、計5個のメダルを獲得し、ブームを巻き起こした。競技人口を意味する日本卓球協会の加盟団体登録者数は平成23年には30万4620人だったが、令和元年には35万8124人まで増えた。コロナ禍に見舞われた2年は26万2175人に減少しており、それだけに、平野選手らオリンピアンも出場するTリーグの成功が競技普及の鍵を握る。

    今季、Tリーグは同シアターのほか、埼玉県和光市の市民文化センターや岡山市の大型商業施設「イオンモール岡山」でも公式戦を実施。ユニークな会場で試合を開催する流れは他競技でもあり、昨年11月のフェンシング全日本選手権決勝は屋外の「六本木ヒルズアリーナ」(東京都港区)で行われた。

    西島部長は「卓球を知っている人以外にも試合を見てもらいたい。ライトな層がいかに来やすくできるかが、大事だと思う。観戦に訪れた人が、もう一度来たくなるような仕掛けを今後も考えていきたい」と話している。

    キックオフは午前10時

    競技時間を変更した好例はサッカー女子プロ、WEリーグの「INAC神戸レオネッサ」。昨年9月12日に神戸市のノエビアスタジアム神戸で行われた「大宮アルディージャVENTUS」との開幕戦を異例の午前10時キックオフとした。

    同日は日曜日で、午後には男子のJリーグや、プロ野球の試合が予定されており、国内女子ゴルフのメジャー大会、日本女子プロ選手権大会コニカミノルタ杯も最終日だった。そうした〝強力なライバル〟との鉢合わせを避けた時間設定が奏功。今のところ、リーグ2位となる4123人の観客が訪れた。また、関西ローカルで、地上波での試合中継も呼び込んだ。

    INAC神戸の安本卓史社長(48)は「身を削って実施したが、新しいことが始まるという意味では、とても良かったと思っている。スタッフにとっても、選手にとっても、チームにとっても、いつもと違う雰囲気をつくり出せた」と話している。(北川信行)


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