2005年―「改革なくして成長なし」ラーメン界の破壊的イノベーション、極太麺・超濃厚「六厘舎」登場

ライブドアによるニッポン放送買収騒動がメディアを騒がせ、ビジネスシーンでは夏の軽装推進運動、いわゆる「クールビズ」がスタート。政界では小泉純一郎が郵政解散・刺客選挙に打って出て自民党が圧勝。何かとにぎやかだった2005年、ラーメン界に破壊的イノベーションが起きていた。以後のラーメンアワードを席巻する「濃厚豚骨魚介・極太つけ麺」の誕生だ。その時代に出現したラーメン店に焦点を当て、日本経済の興隆と変貌、日本人の食文化の変遷を活写する本連載。今回は、重厚長大なフラッグシップとしてシーンをリードした『六厘舎』。食情報がモバイル化した時代に到来した「つけ麺・トランスフォーメーション」を活写する。

魚粉イカダが豚骨魚介つけ汁を泳ぐ!ゼロ年代の「つけ麺2.0」

「改革なくして成長なし」というスローガンが踊った、小泉政権の聖域なき構造改革。郵政民営化を争点にした衆院選では自民党が300以上の議席を獲得。日経平均株価は2003年で底を打って反転し、ITベンチャー企業のIPOが活発化するなど、ゼロ年代では初めて好景気を匂わせる風も吹いた、2005年。東京の城南エリアで一軒のラーメン店が始動する。その名は『六厘舎』。店主・三田遼生はつけ麺の創始者である山岸一雄(東池袋大勝軒店主)との邂逅を機に思い立って脱サラし、開業を決意。2005年の4月18日、満を持して品川区大崎に暖簾を掲げる。もちろんラーメンもラインナップしたが、フォーカスすべきはつけ麺である。

小泉純一郎元首相
小泉純一郎元首相

本連載第3回(1955)で紹介したように、つけ麺は山岸一雄がメニュー化し、同門の「丸長のれん会」がスタイルを確立した。オリジネーターのつけ麺は甘み・辛味・酸味のバランスを取ったつけ汁、しなやかな麺の合わせ技が特徴である。ところが、『六厘舎』のつけ麺はどうだ。

つけ汁の器が運ばれた瞬間、ワイルドに香り立つ魚介風味。茶濁した表面には荒々しい野生すら感じる。豚と鶏の旨みが凝縮され、野菜の甘みと魚介の風味もミックス。当時では比類なき濃厚さだった。トッピングで一際目を引くのは、スープ上にイカダのように浮かぶ海苔、その上にこんもり盛られた魚粉の山だ。カツオ節・サバ節をブレンドした、この旨みパウダーを溶き入れれば、魚介フレーバーはさらにブースト。ザラッとした舌触りも思わぬアクセントとなる。

魚粉の起用自体は『頑者』(川越)が先駆だが、『六厘舎』三田は魚粉を際立たせて味蕾の最前線へ。食べる者へのガツンとした衝撃をねらった。魚粉イカダの投入について、三田は次のように語っている。

「僕がつくりたかったのは、ガサツで荒々しいつけ麺。普通、魚粉はあらかじめ溶いて隠し味にするけど、それではインパクトが出せない。だったら、上にのせてみようかと考えたんですよ」(『dancyu』2007年3月号)

現代ラーメンをドライブさせた96年組の登場以降、創業店主のアルチザン志向は拍車がかかる一方だった。ラーメンというキャンバスに描かれたのは、多彩な素材が重層的に塗り重ねられていく旨みの油絵。しかし、三田は、むしろ引き算の美学で勝負。「普通の素材を使って、それを形がなくなるまで潰して旨みをたたき出す。がさつなやり方でつくるおいしさのほうが性に合っている」(『プロのためのラーメンの本』)と、強烈な原色で魅了した。

景気の踊り場を脱しつつあり、「自民党をぶっ壊す」「感動したっ!」ワンフレーズ・ポリティクスの小泉純一郎が強力な支持を得た2005年。時代はシンプルにしてストロングなものを求めていたのかもしれない。三田はつけ麺のルーツには敬意を評しつつ、甘み、酸味は控えめにして濃厚な旨み、強烈な魚介の香りをつけ麺に結実させた。この年にWebの新概念を提唱したティム・オライリーに習うなら、『六厘舎』スタイルこそ「つけ麺2.0」だったのだ。

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