米の対北政策行き詰まり ウクライナ危機と同時進行のジレンマ

    【ワシントン=渡辺浩生】バイデン米政権がウクライナ危機の対応に集中する中、北朝鮮が今年7回目のミサイル発射を行った。対話の門戸を開き続けるだけの対北政策の行き詰まりは明白だ。核・ミサイルの脅威に対する優先度の低さを金正恩(キム・ジョンウン)政権に印象付け、開発を進める時間を与えている。

    朝鮮労働党中央委員会総会に臨む金正恩党総書記=2021年12月、平壌(朝鮮中央通信=共同)
    朝鮮労働党中央委員会総会に臨む金正恩党総書記=2021年12月、平壌(朝鮮中央通信=共同)

    「われわれの皿の上にはたくさん(の課題や脅威が)のっていて、その一つ一つに集中している」

    国防総省のカービー報道官は今月27日の記者会見でこう語った。ロシアによるウクライナ侵攻危機、中国による台湾への統一圧力と同時に、北朝鮮の挑発にどのように対処するのか-という質問に対する釈明は、米国が陥ったジレンマを浮き彫りにしている。

    バイデン政権は昨年、「現実的アプローチ」という対北政策を打ち出した。「最大限の圧力」を使い首脳間対話を実施したトランプ政権と、「戦略的忍耐」というオバマ政権の中間といわれてきたが、実情は個別の発射実験に声明で非難と対話呼びかけを繰り返すのみだった。

    米国が中国とロシアとの二正面の対処に追われていく過程で、北朝鮮の弾道ミサイル発射は頻度を増し、受け身の対北政策は「もはや機能しないという結論」(米誌フォーリン・ポリシー)が出たといえる。

    ヘリテージ財団のブルース・クリングナー上級研究員は本紙取材に「北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射したり、金正恩氏が首脳会談を提案したりすれば、バイデン大統領は北朝鮮に集中するだろう」と語る。そうした優先度の低い姿勢が、同国がICBMや核実験に踏み切るまで「傍観する」というシグナルを与えてしまった。

    その間に、北朝鮮は極超音速や多弾頭のミサイル開発など「米国と同盟国のミサイル防衛網を突破する」(米議会調査局の報告書)目標に着実に進んでいる。

    バイデン氏が今、プーチン露大統領に毅然(きぜん)と対処できなければ、金氏や中国の習近平国家主席を喜ばせるだけだ。米主導の世界秩序に挑戦する複数の脅威に対峙(たいじ)しつつ、対北圧力強化へ早急な転換が迫られる。


    Recommend

    Biz Plus

    Recommend

    求人情報サイト Biz x Job(ビズジョブ)

    求人情報サイト Biz x Job(ビズジョブ)