「薬局に薬がない」後発薬で欠品、出し惜しみ

    複数のジェネリック医薬品(後発薬)メーカーが法令違反で業務停止処分を受けた影響で、各地の薬局が慢性的な薬不足に陥っている。一部の後発薬の欠品が続いているほか、あおりを受けた他メーカーが代替薬を出し惜しむ「出荷調整」も起きており、混乱は収束の気配を見せない。患者に必要な薬が届かない不安が広がっている。

    薬局では必要な医薬品が手に入らない状況が続いている=昨年12月、東京都江東区の「高橋薬局ファミロード店」(三宅陽子撮影)
    薬局では必要な医薬品が手に入らない状況が続いている=昨年12月、東京都江東区の「高橋薬局ファミロード店」(三宅陽子撮影)

    薬局、医院に広がる不安

    「どうにか、なりませんか」。東京都江東区の「高橋薬局ファミロード店」では昨年の秋口から、そんな相談を医薬品卸の担当者に持ちかけることが増えた。

    これまでは、必要な薬を朝発注すれば午後には届いたが、現在は血圧やコレステロールの薬など使い慣れた製品も「欠品」や「納入未定」と言われる。「入荷次第」と前向きな返答を得られても到着まで数日~数週間かかることもある。

    「継続して使っていた薬が手に入らない。仕方なく違うメーカー品に発注をかけると、今度はその薬が品薄になってしまうという繰り返しだ」。同店を経営する薬剤師の高橋正夫さん(62)はため息をつく。

    リウマチやアレルギーなどの薬が手に入らない状況が続く「北原医院」(大阪府守口市)。同じ薬を継続して調達することが難しくなっており、頻繁に代替薬が変更となる患者もいる状況だ。後発薬から先発薬に変更となり、窓口負担が増えたケースもあるという。

    井上美佐院長は「高齢者は出された薬を大きさや色で把握しているケースも多い。形の違う代替薬に変わることで混乱し、飲み忘れにつながる恐れもある」と危惧する。

    また、てんかん薬が不足する都内の病院は「患者によってはこの薬しか効かないというケースも考えられる。患者も医師も大きな不安を抱えている」(男性医師)と訴える。

    増産には限界

    なぜ、薬不足は起きているのか。きっかけとなったのは後発薬メーカー「小林化工」(福井県あわら市)が製造した爪水虫薬に睡眠導入剤成分が混入して健康被害が拡大した問題だ。

    同社は昨年2月に業務停止命令を受けたが、その後も後発薬大手の「日医工」(富山市)や「長生堂製薬」(徳島市)が不正で行政処分を受ける事態となり、製品供給が滞った。

    市場では代替薬を求める動きが加速したものの、製薬各社は得意先への供給が不足することを恐れ、追加注文を制限する「出荷調整」に動いたことで製品不足が拡大したとみられている。

    製薬各社は管理体制の見直しを急ぐが、人材不足なども影響してすぐに増産するには限界もある。

    厚生労働省は昨年12月、出荷調整の解除や必要以上の発注自粛を呼びかける通知を出したが「混乱は連鎖的な拡大傾向」(医薬品卸の関係者)との声も上がる。ある薬剤師は「メーカー、卸の在庫状況はブラックボックス。明日必要な医薬品が入ってくるか、現場は不安の中にいる」と打ち明けた。

    供給拡充が不可欠

    神奈川県立保健福祉大大学院の坂巻弘之教授(医薬品政策)は「今は各メーカーの供給状況が見えないことで市場に不安が広がり、医療機関や薬局などが必要以上の発注をかけて在庫を抱え込むリスクも生じている」と指摘。「国は市場に流通する在庫の情報を一元的に管理し、発信する態勢を整えるべきだ」と話す。

    安定供給の回復にはメーカーの供給拡充が不可欠とみるが、「増産体制を整えても生産ラインを支える人材の確保と育成が進まなければ品質面に問題が生じ、供給現場の混乱が再び繰り返される恐れもある」と警鐘を鳴らしている。(三宅陽子)


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