「賃上げで経済回復」「方向は共有」 労使代表が語る4年春闘

    岸田文雄内閣が賃金引き上げ(賃上げ)への期待を表明する中で始まった令和4年春闘。引き上げの必要性では労使双方が一致しているが、新型コロナウイルス禍で業績低迷から抜け出せない企業も目立つ中、どこまで波及するかは不透明だ。企業規模間や雇用形態間、男女間などの格差是正も焦点。連合の芳野友子会長と経団連の大橋徹二副会長にそれぞれ意見を聞いた。(聞き手 井田通人)

    合同インタビューを行う、連合の芳野友子会長=1日午前、東京都千代田区(鴨志田拓海撮影)
    合同インタビューを行う、連合の芳野友子会長=1日午前、東京都千代田区(鴨志田拓海撮影)

    連合の芳野友子会長

    連合の芳野友子会長(鴨志田拓海撮影)
    連合の芳野友子会長(鴨志田拓海撮影)

    「賃上げが経済回復のカギ」

    ――連合は4年春闘で4%程度の賃上げを求めている

    「日本の賃金水準は平成9年をピークに停滞しており、海外との比較でも停滞ぶりが目立つ。企業規模間、雇用形態間、男女間の格差是正も進んでいない。組織労働者が引き出した労働条件の改善を社会全体に波及させるという、日本全体の賃金決定メカニズムとしての春闘の役割は、より重要になっている」

    ――新型コロナの変異株「オミクロン株」の広がりで、経済の先行きが不透明になっている

    「日本経済の回復は、オミクロン株による後ろ倒しこそあっても、回復していくこと自体は間違いない。むしろ、回復のカギとなるのが今年の春闘における賃上げではないか」

    ――業績が低迷する企業にとって賃上げは難しい

    「コロナ禍に苦しむ産業や企業では、労働条件のコロナ前への復元が精いっぱいかもしれない。しかしそれで終わりにせず、将来に向けた展望や、中期的に目指すべき数字を労使で話し合うことも、連合が掲げる『未来づくり春闘』の視点からいえば非常に重要だ」

    ――資源価格の上昇などを背景に企業物価が上昇している

    「企業物価の上昇は、消費者物価にも波及しつつあり、賃上げが追い付かなければ経済回復はさらに遅れる。すべての組合が賃上げを実現することで、個人消費を回復させ、経済の好循環を実現する必要がある。新型コロナの不安があるからこそ、活力の源泉となる人への投資を行い、未来志向の賃金決定に転換するため、企業の内部留保も積極活用すべきだ」

    ――経団連の春闘方針「経営労働政策特別委員会(経労委)報告」についての受け止めは

    「1つ挙げるとすれば、経済界を代表する使用者団体として、より大きな視点から日本の社会経済が抱える構造的課題に対する分析と解決の道筋を示してほしかった」

    ――官製春闘との指摘は今年も出ている

    「ここ数年、官製春闘といわれてきたが、結果としては成果が出ていない。それに賃金や処遇は労使の話し合いの中で確立していくべきで、政府が干渉するのはいかがなものか。ただ、経済成長のために賃上げが必要という雰囲気は出てきているので、それを踏まえながら各企業が交渉していくことになる」


    経団連の大橋徹二副会長

    「目指す方向は共有」

    ――昨年より経済環境は改善したとの認識だ

    「コロナ禍は続いており、対面型のサービスを提供する企業やインバウンド(訪日外国人)関連など、いくつかの業種はまだまだ非常に厳しい。一方で世界経済が回復する中、日本でも製造業を中心にかなり業績が良くなった企業がある。『まだら模様』や『K字型』の回復との認識だ」

    ――経団連は賃上げに前向きな一方、業種横並びや一律での引き上げには否定的だ

    「業績が高水準で推移している会社は、賃上げのモメンタム(勢い)維持に向けて積極的に頑張ってもらいたい。そして(基本給を底上げする)ベースアップ(ベア)も含め、賃上げと総合的な処遇改善にきちんと取り組んでほしい。一方で、非常に厳しい企業はまず事業継続と雇用維持が大きな課題だ。ただし、単年度ではなく複数年度でどういう方向に持っていくかというような話もしていただきたい」

    ――連合とは賃上げの必要性では一致している

    「連合が基本給にこだわっているのに対し、経団連は基本給も諸手当も一時金も個別企業で決めるという立場だ。そうした方法論に違いはあるが、目指す方向は非常に共有していると思っている」

    ――足元の物価上昇が労使交渉に与える影響は

    「確かにガソリン価格などは上がっているし、消費者物価の上昇率も賃金決定の要素なのは間違いない。ただ、賃金水準や過去にどのように賃金を引き上げ、配分してきたかは企業ごとに異なる。消費者物価の上昇も一律に上乗せするのではなく、個々の企業が決めるべきだ」

    ――オミクロン株の影響は

    「春闘は、働き手と会社が過去1年の業績や現在の競争力、今後の(業績の)伸びなどを考慮しながら議論していくものだ。オミクロン株が短期的に影響を与えることは否定しないが、それだけを取り上げて下を向くことはない」

    ――賃上げには政府も期待している

    「政府の期待は各企業も理解していると思う。一方で各企業が賃上げをするだけの実力があるか、踏み切れる状況かということもある。(業績回復企業に3%以上の賃上げを求める)岸田首相の期待表明も経営者の頭の中には入っていると思うが、それ以上でもそれ以下でもない」


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