例えば、日本の債務問題について考えるとき、お金だけに注目すれば「過去の世代が借金を残して、今の世代が返済せねばならない」と捉えがちだ。ただ、政府が使ったお金を受け取って働いたのは、過去の日本国民。そのお金は日本の中の個人や企業に移動したにすぎない。しかも昔の世代が働いたことで、日本の生活は豊かになり、道路などのインフラも整備され、その恩恵は今も続いている。
一方、世界にはギリシャやアルゼンチンのような財政破綻した国もある。しかしこれらの国は日本と異なり、借金をして得たお金の使い道は海外からの製品やサービスの輸入だった。お金は国外に流れてしまったのだ。大切なのは借金の額ではなく、国外に頼らないで、自分たちが働いて今の社会を作り上げていることだ。「過去の世代が今の世代のためにしてくれたことに感謝しないと、今の世代が未来の世代のために何かをしようという気にはならない」と考えたという。
年金問題についても、お金にだけ着目すると「将来のためにどのようにお金を蓄えていくのか」という論点に光が当たってしまう。年金の財源を受給者が積み立てた保険料で賄う制度か、現役世代から集める税金などで賄う制度かといった議論だ。
しかし田内さんは「将来のためにお金を貯める方法よりも大切な問題がある」と考える。どんな方法で将来のためのお金を蓄えたところで、日本国内で働く人が少なくなれば、手に入れられる製品やサービスは減ってしまうからだ。
田内さんは「個人の問題はお金で解決できるけれど、社会全体の問題はお金以外の解決方法を考えなければならない」と話す。
■生産力がなければ、日本は円を抱えて沈没
日本は財政赤字を増やしても破綻しないのかという問いに対する答えは、「借りたお金で海外の人たちに働いてもらうのではなく、国内の人々が働くのであれば大丈夫」だ。そのためには国内の人々や企業が、需要にマッチした製品やサービスを生み出す力を持っている必要がある。人口や、人々のニーズに答えるだけの開発能力を維持することが重要で、少子化対策と同様に子供に対する教育にも力を入れる必要がある。将来の日本を支える世代が高い水準の教育を受けて、質の高い製品やサービスを効率よく生み出すことができるようになるからだ。
年金制度についても似たことがいえる。将来のためにいくらお金を貯めてもお金を使う製品やサービスが国内で提供されなければ使い道はないに等しい。海外から製品やサービスを輸入することもできるが、生産力がない国の通貨を受け取ってくれる国は少ないためだ。田内さんは「今、日本人が海外製品を買うために円をドルに替えることができるのは、取引相手が受け取った円で日本の製品を買おうと思ってくれているから。日本の生産力が落ちれば、日本人は円を握りしめたまま日本が沈没していくのを見ていなければならない」と指摘する。