みなし陽性、自主療養…崩れる「検査・受診」の原則 感染激増で医療省力化

    新型コロナウイルスのオミクロン株による感染急拡大で、「検査、受診」という初期対応の原則が崩れつつある。東京都や大阪府などでは、感染者の濃厚接触者となった同居家族に発熱症状などが出た場合、検査をせずに医師の判断で感染者とみなす仕組みを導入。自主的検査で陽性を確認後、医療機関を受診せずに自宅療養することを認める自治体もあり、圧倒的な感染者数を前に対応の省力化を余儀なくされている。

    東京都が開設した、新型コロナウイルス自宅療養者用の電話相談窓口「自宅療養サポートセンター」=1月
    東京都が開設した、新型コロナウイルス自宅療養者用の電話相談窓口「自宅療養サポートセンター」=1月

    従来のコロナ対応では発熱などの症状が出た場合、医療機関などを受診。検査結果などから医師が陽性と診断すれば、感染症法に基づき保健所に届け出る。ただ1月以降、過去の波を大幅に上回る感染者数と濃厚接触者が出たため、発熱外来の受診や検査需要が急増し、医療機関の負担軽減が急務となった。


    対応は変わらず


    1月21日には、神奈川県が「家庭内に療養中の陽性者がいる場合に医療機関の検査を省略できる」との方針を決定。政府も同24日に自治体の判断で、感染者の濃厚接触者となった同居家族らに症状が出た場合、医師が検査せずに臨床症状で診断し、「みなし陽性」とすることを追認した。

    厚生労働省の担当者は「インフルエンザでも同様の運用がされる」と説明。急激な発熱、倦怠(けんたい)感、全身の痛みなどの症状▽周辺地域の流行状況▽感染者との接触―などを踏まえ、医師が総合的に診断し、感染可能性が非常に高いか、非常に低い場合には検査しないことも多いという。

    今回のみなし陽性について、現場の医師も「濃厚接触者で症状が出ていれば、ほぼ確実に陽性なので、検査キットが枯渇している現状では一定の合理性がある」と理解を示す。

    実際、東京都では特に地域の診療所などで検査キット不足が目立つといい、日々2万人前後の新規感染者が報告される中で、みなし陽性も4日413人、5日543人、6日526人と一定数出ている。

    みなし陽性であっても、感染者としての対応に原則変わりはない。医療機関が検査を実施しないだけで、医師による診察が行われた上で、保健所に発生届を提出。患者の容体に応じ、保健所や地域の医療機関による健康観察、コールセンターでの相談受け付けなどに振り分けられる。

    都の担当者は「感染疑い例であっても、まずは医療機関の目を通るという関門は維持される。検査が行われないだけで、これまでと違う対応をとるわけでもなく、特段の支障はないと考えている」と語る。

    一方、神奈川県が1月28日から始めたのが、医師の診断を受けないまま自宅療養する「自主療養制度」だ。重症化リスクの低い6~49歳が抗原検査キットで陽性だった場合、医療機関を受診せずに自宅療養を可能とした。申告に基づき、学校や勤務先向けの「自主療養届」が発行される。

    政府対策分科会の尾身茂会長ら専門家有志も2日、緊急避難的な措置として、神奈川県と同様の取り組みを勧奨する案を厚労省の専門家組織に提言した。


    データより人命


    医師の発生届提出や保健所などの健康観察の手間が省ける一方、従来の陽性診断などと異なり、感染症法上の感染者には当たらない。このため自主療養制度を選んだ人には、就業制限をかけられない。療養者が申告しなければ、自治体はその存在すら把握できず、新規感染者数などのデータの連続性が途切れ、実態との乖離(かいり)が生じる。

    首都圏の医療関係者は「従来の想定では対応しきれない非常事態ということだ。分析にはデータも重要だが、命が最優先。重症化リスクの高い高齢者らに医療資源を確保するためには仕方ない」としている。


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