牛タン一本足打法脱却へ 仙台で「セリ鍋」ブーム

    ほろ苦い根っこが病みつきに⁉ 宮城県産のセリを使ったご当地鍋を提供する店舗が仙台市内で増えている。セリ農家が飲食店に調理法を伝授するなど自治体や農協を介さず〝草の根〟活動で広まったのが特徴だ。全国的な認知度は高いといえないが、生産者らは「牛タン」を超える郷土料理として地歩を固めようとしている。

    根っこもおいしい仙台市のセリ鍋=同市青葉区の割烹「愚三昧 菜る海」(奥原慎平撮影)
    根っこもおいしい仙台市のセリ鍋=同市青葉区の割烹「愚三昧 菜る海」(奥原慎平撮影)

    「こんもり盛り付けていますが、ぺろりと平らげられます。ほろ苦さが癖になって病みつきになる人も多いんですよ」

    仙台市青葉区の割烹(かっぽう)「愚三味 菜る海」の店主、鳴海克勇氏はセリ鍋の具材を前にこう自信をのぞかせた。おかみが「葉や茎はシャキシャキとした食感を損なわないよう、しゃぶしゃぶのようにくぐらせるだけでいいんです」と鴨肉やセリの根を鍋に投入すると、滋味深いセリの香りが漂ってきた-

    同店がセリ鍋を始めたのは平成21年頃。当時はセリを提供する店は市内で10店舗以下だったという。今では仙台の繁華街のいたる所で「セリ鍋あります」「セリ鍋始めました」といった張り紙が確認できる。仙台市はセリ鍋の提供店舗数を把握していないが、鳴海氏らによれば「ほとんどの飲食店でセリ鍋を出している」ほどの人気だという。

    具は鴨肉や鶏肉、豚肉、ブリなどさまざまだが、共通するのが葉物のセリが主役で肉や魚介類は引き立て役という点だ。宮城県の村井嘉浩知事も7日の定例会見で「食べてみるとシャキシャキしていておいしい。栄養価があって身体にもいいので、健康ブームにものっている。積極的にPRしていきたい」と太鼓判を押した。

    セリ鍋ブームの火付け役の1人が宮城県名取市のセリ農家、三浦隆弘氏だ。宮城県のセリの生産量は全国の4割を占め、その半数が名取市から出荷されている。セリは正月のお雑煮や春の七草がゆに使われ、生産地のおひざ元でも根っこを食べる文化はなかった。

    三浦氏は根っこも含め、丸ごとセリを味わってもらおうとセリ鍋のレシピを仙台市の居酒屋「いな穂」と考案した。平成15年頃から仙台市の日本料理店などに出向き、「鍋奉行」としてセリ鍋を実演。月に15~20店舗に通い、調理のコツを伝えてまわった。

    三浦氏を突き動かした原動力の一つが秋田県の郷土料理「きりたんぽ鍋」への対抗心だ。きりたんぽ鍋に欠かせないセリは宮城県産で、三浦氏は「おいしいセリを出荷しても『秋田のきりたんぽはおいしいね』といわれ、忸怩(じくじ)たる思いだった」と振り返る。仙台名物の牛タンも実は米国産に頼るケースが多い。

    ただ、セリは調理に手間がかかる素材だ。根っこは腐りやすいため、頻繁に生産農家などから仕入れる必要がある。根っこについた泥も飲食店を悩ませる。1人分のセリ約150グラムの泥を落とすには歯ブラシで約20分かかるという。

    それでも、東日本大震災の復興を支援する県外ボランティアやテレビ局などが地産地消のセリ鍋を後押ししようと、SNS(会員制交流サイト)やテレビ番組などで取り上げると次第に提供店舗が増えていった。

    三浦氏はセリ鍋の販促活動に自治体や農協に協力を依頼しなかった。その理由について「自らの意思で取り組んでもらわないと地域に根ざした食文化にはならない。手間がかかる分、食材に真剣に向き合ってほしい」と強調した。

    セリ鍋人気に触発されるように、セリの根や葉を添えたラーメンの提供店もじわり増えている。仙台市宮城野区の「中華そば 一休」は26年頃にセリラーメンを始めた。店主の井上卓也氏は「ラーメンがそれほど好きではないけど、セリが病みつきになって常連になった人もいます。新型コロナウイルス禍でも経営できているのはセリラーメンのおかげかもしれませんね」と語っている。

    一方、ブームに生産が追い付かず、粗悪なセリが市場に高値で出回り、県外産のセリ鍋を扱う店が現れるなど課題も出てきている。(奥原慎平)


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