雇用保険の保険料はどう計算しているの? 対象になる賃金や計算方法を解説

はじめに

毎月賃金から支払われている「雇用保険料」について、「どういう基準で計算しているんだろう」と疑問に思ったことはありませんか。もしくは、給与に関わる仕事などで、「雇用保険料の計算を初めて行うことになったけれど、計算方法がわからない」という方もいるでしょう。そこで今回は、雇用保険の対象となる賃金項目や計算方法について詳しく解説します。

雇用保険料とは?

※画像はイメージです(GettyImages)
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雇用保険料とは、働く労働者のための保険制度「雇用保険」において、賃金から差し引いて支払われる「掛け金」のことです。この掛け金は、失業した際に受け取れる「基本手当(失業給付)」や産休、育休中の「育児休業給付」などの給付金として労働者に支払われます。

その他にも、再就職を促すための職業訓練や教育、失業予防や雇用状態の是正に活用される場合も。そのため、保険料の支払いは失業や休業など、被保険者である労働者の「もしも」に備えるために非常に重要なものです。

労働者が受け取る賃金のうち、支払うべき保険料の対象となる項目と対象外の項目があるのはご存知ですか。以下では、対象の賃金項目と対象外の項目を紹介します。

雇用保険の対象になる賃金項目

対象となる賃金項目は、原則として「労働の対償として事業主(使用者)から労働者に支払われる全てのもの」が該当します。これは、賃金、手当、給料など名称の違いを問いません。以下は、対象項目の一例です。

・基本賃金(時間給や日給、月給など。加入対象のパートやアルバイト、日雇い労働者の賃金も含む)

・賞与

・通勤手当や回数券、定期券

・残業手当や深夜手当など、通常時間以外の勤務にて支払われるもの

・扶養、子ども、家族手当など労働者以外に支払われるもの

・休業手当

・前払い退職金(労働者が在職中に給与、または賞与に上乗せされるなど前払いで受け取る場合)

この他にも、対象の賃金項目は多岐にわたります。そのため、計算を行う際は事前に賃金が保険の対象項目かどうか、しっかり確認すべきです。

雇用保険の対象にならない賃金項目

会社から支払われる賃金には、雇用保険の対象ではない項目も存在します。以下は、対象外となる項目の一部です。

・取締役などに支払う役員報酬

・結婚祝い金や見舞金、死亡弔慰金など

・出張旅費や宿泊費

・休業補償給付金

対象外の理由は、役員報酬のように雇用保険の非対象者に支払われるため、結婚祝い金のように任意的、および恩恵的に支払われる金銭であるためなど、項目により異なります。そのため、対象項目と同様に計算前に確認しておきましょう。

雇用保険料の計算方法を紹介

ここからは、保険料の計算に欠かせない「雇用保険料率」の解説と、計算方法について例を挙げて紹介します。

雇用保険料率とは?

賃金のうち、雇用保険料としてどの程度負担するかを表したものが「雇用保険料率」です。保険料は会社と労働者が分担して支払っていますが、その割合は均等ではなく、事業主側が多く負担するように設定されています。

そのため、労働者と事業主では計算において使用する料率も異なるので注意が必要です。具体的な金額は、賃金に事業種ごとに設定されている「雇用保険料率」を掛けて計算します。

厚生労働省発表による現在(令和3年度)の保険料率は、以下の通りです。

【一般事業所の場合】

①労働者負担:3/1,000

②事業主負担:6/1,000 ①+②=9/1,000

【農林水産・清酒製造事業】

①労働者負担:4/1,000

②事業主負担:7/1,000 ①+②=11/1,000

【建設事業】

①労働者負担:4/1,000

②事業主負担:8/1,000 ①+②=12/1,000

料率は毎年見直しが行われ、変更がある場合はその年の4月1日から新しいものが適用されます。また、事業種ごとに料率が異なる点も留意しておきましょう。そして、雇用保険の加入は労働者に限られます。よって労働者を使用する側である会社の取締役や役員、個人事業主は加入できず保険料の支払いもありません。そのため、計算や徴収の際は注意すべきです。

保険料の支払いは、加入とともに義務付けられています。そのため、対象の賃金が計算から漏れないよう、対象項目かどうか不明な場合は事前にハローワークに問い合わせるとよいでしょう。以降では、労働者、事業主それぞれの計算方法の紹介と算出例、端数の処理について解説します。

労働者負担分の計算方法

先ほど解説した通り、労働者負担分の保険料は賃金に労働者負担分の保険料率(一般事業の場合は3/1,000)を掛けて計算します。

例)株式会社〇〇社で営業職として働くAさんの諸手当含む給与額が25万円、賞与額60万円の場合

社会保険料や税金など控除前の給与額:25万円

25万円×3/1,000=750円

社会保険料や税金など控除前の賞与額:60万円

60万円×3/1,000=1,800円

以上の計算から、労働者負担分の保険料は25万円の給与額で750円、60万円の賞与額で1,800円となります。ただし、事業種によって料率が異なるため、適合する事業種に定められている料率で計算しましょう。

事業主負担分の計算方法

事業主負担分の場合も計算方法は変わりません。ただし、必ず事業主負担分の保険料率(一般事業の場合は3/1,000)を用いて計算します。

例)株式会社〇〇社で営業職として働くAさんの諸手当含む給与額が25万円、賞与額60万円の場合

社会保険料や税金など控除前の給与額:25万円

25万円×6/1,000=1,500円

社会保険料や税金など控除前の賞与額:60万円

60万円×6/1,000=3,600円

以上の計算により、事業主負担分の保険料は25万円の給与額で1,500円、60万円の賞与額で3,600円となります。労働者負担分と同じく、事業種によって料率が変わるため注意が必要です。

端数が出た場合の計算方法

雇用保険料の計算で、ときに1円未満の端数が出てしまうケースがあります。その場合は、「50銭以下は切り捨てて、50銭1厘以上は切り上げて計算する」のが原則です。

ただし、労働者と使用者の間でこの原則と異なる慣習など端数処理に関する特約があるならば、そちらの端数計算の優先が認められています。

事業種別で雇用保険料率が異なる理由

※画像はイメージです(GettyImages)

「計算方法はわかったけれど、そもそも雇用保険料率が事業種ごとに異なるのはなぜ?」と疑問に思う方もいるのではないでしょうか。ここでは、その理由について解説します。

農林水産・清酒製造業の場合

農業や漁業、清酒の製造といった事業は、1年を通して同じ仕事、業績を維持できるとは限りません。多くの場合は、気候の変化によって事業規模の縮小などがあり変動するためです。そのため、労働者も就業状態が安定しづらく、結果一般の事業と比べて失業手当などを受給する割合が高い傾向にあるのです。

このことから、雇用状態が安定しやすい一般の事業所との公平を保つ目的で、保険料率が高く設定されています。ただし、農林水産事業に分類される事業所であっても、季節の変化による休業や事業規模の縮小といった影響を受けにくい業種は一般の事業に分類されます。一般の事業となる農林水産業は、以下の業種です。

・牛や馬の飼育、酪農、養豚や養鶏を行う事業

・園芸サービス

・河川や湖沼を利用する内水面養殖業 など

建設業の場合

建設業の雇用保険料率が高く設定されているのは、農林・清酒製造業と同じく就業状態が安定しにくいことにくわえて、離職者も多いために失業給付の利用割合が高いためです。建設業界では、請け負った建築物ごとに雇用契約を行うケースが存在しており、この場合プロジェクトの終了とともに雇用も終了となります。

その結果、失業となる労働者の割合が一般の事業所より増え、不安定な就業状態および失業手当の受給につながってしまうのです。結果として、建設業の雇用保険料率は一般の事業よりも高く設定されています。

また、建設業には独自の「助成金」制度があるのも理由のひとつです。この助成金は、雇用保険から財源を得ています。そのため、同じく手当の受給率が高い農林水産・清酒製造業に比べても料率が高く設定されているのです。

まとめ

雇用保険は、労働者が安心して働くために欠かせない制度であり、加入や保険料の支払いの義務は必ず果たすべきものです。保険料の計算において間違えやすいのは「対象となる賃金項目」といえます。

そのため、計算前に各手当が対象の項目かどうかを重々確認の上で処理を行うべきです。また、雇用保険料は毎月の賃金総額によって変動するため、毎月きちんと計算し支払うようにしましょう。

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