ドクターヘリ「最後の空白県」が香川だった事情

    平成20年にフジテレビ系で放映されたドラマ「コード・ブルー」(第1シーズン)でも描かれた「救急医療用ヘリコプター(ドクターヘリ)」。「全国最後の空白区」の香川県では4月18日の運航開始が決まり、救急救命の向上が期待される。かつては、日本で一番狭い県の利もあって、救急搬送が最も速かった時期もあった香川県だが、令和に入ってから本格的な検討を進めていた。

    実機を使った消防との連携訓練。全員が真剣そのものだ(香川県提供)
    実機を使った消防との連携訓練。全員が真剣そのものだ(香川県提供)

    かつては救急搬送最速

    ドクターヘリは、救急専用の医療機器や医薬品を装備し、専門の医師と看護師が搭乗したヘリコプター。都道府県では平成13年に岡山県が最初に導入し、19年6月には全国的な配備をうたった特別措置法が制定された。

    香川県は県土のコンパクトさや道路舗装率の高さなどに恵まれ、18年には救急車の救急搬送時間が25・2分と全国で最も短かった。その後、患者の高齢化に伴い症状の聞き取りなどに時間がかかるなど現場滞在時間が長くなり、30年の搬送時間は35・4分で全国10位となっていた。

    30年9月時点で、共同配備や運航協定(各1県)を除くドクターヘリ空白区は東京と香川だったが、東京では夜間飛行が可能な東京型ドクターヘリが消防との連携で多摩・島嶼(とうしょ)地域で運用されていた(東京都は3月にも単独運航も開始)。

    香川県は令和元年7月に導入検討委員会を設立し、2年1月に導入が必要とする報告書がまとまった。年間の新規需要見込みを243人、導入により救命される患者11人、後遺症などが軽減される患者が17人と試算している。

    県医師会の久米川啓会長は「運航開始の決定は感慨深い。島嶼部を中心に救急医療の質向上につながってほしい」と期待を寄せる。

    「オール香川」で

    2年度からは運航調整委員会で具体的な運航要領の策定やさまざまな準備を進めてきた。運航計画は香川大学付属病院(三木町)と県立中央病院(高松市)の救命救急センターを基地病院とし、隔週当番制とする。原則として午前8時半から午後5時半または日没まで(天候不良時を除く)。

    初年度の運航事業費として県は約2億4550万円を計上し、運航や整備などは四国航空(高松市)に委託する。緊急離着陸場は県内200カ所前後を目指して関係先と交渉している。専門ドクター6~8人、ナース8人の確保に向け、ドクター候補16人、ナース候補27人が実践的研修を受けている。

    昨年12月には候補者に対し搭乗前安全教育などの座学研修を、今年1月には実機を用いて基地病院での医療関係者搭乗訓練、ヘリポート発着訓練を実施した。

    運航調整委委員長で香川大学付属病院の門脇則光院長は「円滑で効果的な運航を実現できるよう『オール香川』で取り組むのが重要だと再認識している」と、気を引き締めている。

    離島医療への効果期待

    ドクターヘリ導入で、香川県では特に、島嶼部の救急救命体制の大幅な強化が見込まれる。これまで防災ヘリが搬送に利用できない島ではチャーター船で搬送する場合も生じていたが、人口の多い島には離着陸場所が設けられる見込みで、医療環境は大きく改善する。

    防災ヘリと異なり、ドクターヘリは、短い時間(5分)で離陸できる。さらに、医師と看護師が搭乗し二次救命処置に必要な機材が常備され現場到着時から処置が施せる。

    厚生労働省の調査研究によると、ドクターヘリは出動要請から医師の治療開始まで平均14分で、救急車に比べ約27分短く、死亡で約39%、重症・後遺症では約13%の減少効果があるという。

    香川大学付属病院の黒田泰弘救命救急センター長は「面積は狭いが人口密度が比較的高く高次医療機関が中心部に集中。離島では医療資源不足で高次医療機関への転院を余儀なくされる場合も少なくない。こうした救急医療体制の課題を着実に解決できるよう運用することが必要だ」と指摘した。

    県立中央病院の佐々木和浩救命救急センター長は「2つの基地病院が日頃から密に情報交換・共有を行い、患者さんが最適な治療をより迅速に受けられる運用に努めていきたい」と話した。

    県医務国保課では「導入が一番最後になったので逆に十分な検討ができたと思っている。先行事例を参考にしながら効率的な運用を実現していきたい」としている。(和田基宏)


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