しかし、ここには意外な落とし穴があります。もちろん、こうした報奨金制度が、部下の頑張りを後押しすることは事実ですが、運用に気をつけないと、一般的に思われているよりも効果がかなり限定的になりうるのも、この報奨金なのです。
インセンティブの失敗は、主に次の4つのようなこととして現れます。
【その1:インセンティブ不感症】
報奨金は、最初にもらったときはとても嬉しいものですが、二度三度となるにつれて「慣れ」てしまい、ありがたみを感じなくなります。これを強めようとすると、額をUPさせるということになりますが、おいそれと額を増やすわけにはいきませんよね。せっかくの報奨金が、早晩、「なんだ。こんなに頑張っているのに、これしか貰えない」という気持ちにさせてしまうのです。
また、毎回同じ人が獲得するようになってしまうと、獲得できないメンバーに「どうせ自分はもらえないし」という思いを抱かせ、結果的に意欲低下をまねきかねません。
【その2:部門間や職種間の溝を作る】
報奨金は営業、また稼ぐ事業部に設定されることが多いですが、これがサポートスタッフや間接部門のメンバーの意欲を下げ、職種間・部門間の溝を生むこともよくあります。
【その3:当人の大義やプライドを傷つける】
なんでもかんでも報奨金という営業系の会社もありますが、そうすると「自分はお金のためだけに働いているわけではない」と、当人の志やプライドを傷つけ、逆にそのメンバーたちの意欲を削いでしまうことがあります。
【その4:不正を誘発する】
最近も大手M&A仲介企業や大手証券会社で営業に関する大きな不正が発覚し大問題となりましたが、報奨金やその前提となる目標達成に対する過剰なプレッシャーは、社員の不正を誘発してしまうことがあります。
これらはいずれも報奨金制度の負の側面で、せっかくのインセンティブが逆に社員や組織にダメージを与えてしまうこととなります。皆さんも直接・間接的に、これまでご経験されていたり、見聞きしたことがあるのではないでしょうか? その4は、流石にあってはマズいですけれども…。
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報奨金であれ、賞賛であれ、昇進であれ、人は「同額のインセンティブ」にはすぐ慣れてしまう生き物です。これを逆手にとって私たちのインセンティブをゲーム終了までくすぐり続けてくれるのが、ドラクエなどのRPGです。最初はHP1のスライムしか倒せなかったのが、ゲームが進むにつれてどんどん強いモンスターを打ち倒せるようになる。あのHPの逓増こそが、このインセンティブの中毒性を逆手にとったプログラムです。
このように、インセンティブでの動機付けには、常に「より大きな」インセンティブを提供する必要がありますが、現実の世界では当然のことながら限界があります。残念ながら、すぐに<弾切れ>となるわけです。
ブルームの「期待理論」で、ドーピング的な効果があることをご理解いただけたと思います。もちろん使っても良いのですが、使い方としては「ここぞというところで、効果的に」。使い過ぎにはくれぐれもお気をつけください。