「日本一のデパ地下」目指す　新生・阪神百貨店

阪急阪神百貨店の阪神梅田本店（大阪市北区）が６日、リニューアルし、平成２６年以来、７年半ぶりに全面開業した。昭和８年に創業し、「食の阪神」として親しまれてきた同店。全フロアの３割以上を食品関係とするなど得意の「食」を前面に押し出しており、この日開業した地下１階の食品売り場「阪神食品館」はその本丸だ。品ぞろえなどの質や量で「日本一のデパ地下」を目指し、百貨店激戦区・梅田で〝２番手〟以下に甘んじていた状況からの反転攻勢をかける。（会員登録していただくと、オリジナル動画をご覧いただけます）

「さあ、生の本マグロ。和歌山県産が半額だよ」「前代未聞のブリ。脂の乗りが違う」。６日午前の開業直後、多くの買い物客でにぎわう阪神食品館。食品ごとに６つあるエリアのうち「生鮮ワールド」では、鮮魚担当の社員の声がマスク越しに威勢よく響いていた。新型コロナウイルス禍のため、発声は以前より抑えているという。

老朽化した同百貨店は平成２６年１０月、建て替え計画をスタートさせ、段階的に開業。この間、完全には営業できなかった。昨年１０月には２期棟が食品売り場の一部を除いて先行開業し、今回の阪神食品館のオープンで改装が全て完了。１１フロアのうち４フロアを食品や飲食店とし、「食の阪神」を強力に打ち出した。

生鮮ワールドは「圧倒的な品ぞろえと鮮度、ライブ感のある市場のような空間を目指した」（同百貨店担当者）という看板エリアの一つ。鮮魚コーナーでは丸々としたタイやサワラなどがケースに並び、野菜コーナーでは「大阪産」ののぼりとともに水ナスやタマネギなどが置かれていた。

ライバルは「阪急」

全面リニューアルに踏み切ったのは建物の老朽化が進んでいたためだが、同じエイチ・ツー・オーリテイリング（Ｈ２Ｏ）グループで、目と鼻の先にある「阪急うめだ本店」（同区）との差別化を図る必要にも迫られていた。

梅田地区は全国屈指の百貨店・商業施設の激戦区で、西日本最大の売り上げを誇る「阪急うめだ本店」を筆頭に、ＪＲ大阪駅と同じビルに入る「大丸梅田店」と商業施設「ルクア大阪」などがしのぎを削る。

「阪神は老舗だが地味なイメージで、阪神電鉄・大阪梅田駅と直結という利便性も生かせていなかった。一強の阪急から大きく離された２、３番手だった」

阪神の位置付けをこう語るのは、帝国データバンク大阪支社の昌木裕司情報部長だ。同百貨店関係者も「目の前に建つ阪急と同じことをしていても仕方がない。激しい競争を勝ち抜くためにも、ゼロベースで店を作り、店の特徴を際立たせる必要があった」と明かす。

昭和３０年代から売られている名物のいか焼き（１５２円）など阪神は庶民的な食品の取り扱いも多く、百貨店業界でも「食」に強みがあることで知られてきた。

今後、この強みを再び押し出し、〝１番手〟の奪取を目指す。Ｈ２Ｏ関係者は「徹底的に食にこだわった店にすることにした。百貨店の常識では１階の売り場は海外ブランドやファッションだが、阪神はデパ地下ならぬデパイチから食品だ」と強調する。

スイーツ通り

新たに開業した阪神食品館には、客が食品を楽しみながら選べる工夫が詰め込まれている。

６エリアの一つ「洋菓子ワールド」は、直線約１００メートルにわたってスイーツ専門店が立ち並ぶ圧巻の光景だ。関西の有名パティシエが手掛ける店や西日本初常設店など、スイーツ好きを満足させるラインアップとなっている。

阪神側がアイデアを出して立ち上げた店もあり、はちみつをかけたチーズ菓子を扱う「ドローリー」はその一つ。若い女性客らを取り込もうと見栄えにこだわったスイーツも多く、フルーツ菓子の「フリュテリーカノン」では、イチゴやキウイなどをゼリー状のシロップに詰め込んだフルーツポンチが売り場を華やかに演出していた。

さらに「和菓子ワールド」もあり、カレーせんべいやフルーツ大福などの専門店が６月にかけて続々と開業予定。トラ模様の生地に粒あんと生クリームを挟んだ「たねや」の生どら焼きなど、他の百貨店に出店していない味も楽しめる。

阪神梅田本店フード商品統括部の中尾康宏・商品統括部長は「１年に１回、一生に一度しか買わない特別なスイーツではなく、商品の親しみやすさや手ごろ感にもこだわった」と説明した。（井上浩平）