EV元年

    ㊥「最重要部品」電池争奪戦号砲

    2011(平成23)年3月の東京電力福島第1原発事故で、町内全域に避難指示が出された福島県浪江町。17年3月に町中心部など一部地域で避難指示が解除されたが、町に戻った人は事故前の約2万1000人の1割に満たない。いかに復興に取り組むかが課題となるが、この町には脱炭素社会の実現を支えると期待される「宝の山」がある。電気自動車(EV)の使用済みリチウムイオン電池だ。

    フォーアールエナジー浪江事業所の棚に並べられた車載電池=3月29日、福島県浪江町(宇野貴文撮影)
    フォーアールエナジー浪江事業所の棚に並べられた車載電池=3月29日、福島県浪江町(宇野貴文撮影)

    使用済みを再生

    フォーアールエナジー(横浜市)の浪江事業所に足を踏み入れると、日産自動車のEV「リーフ」で使われた電池パックが棚にずらりと並ぶ。このまま眠るのではない。新たな使命を担い、羽ばたくのを待っているのだ。

    同社は日産が51%、住友商事が49%出資し、車載リチウムイオン電池の再利用の技術開発や販売を手掛けている。浪江事業所では、日産販売店や解体業者などから集めた電池の性能を測定。充放電を行い、劣化状態をチェックする。高性能ならリーフの交換用電池に、中間性能以下なら電動フォークリフトや工場の受変電設備のバックアップなど向けに再製品化される。

    日産は5月に中型のスポーツ用多目的車(SUV)タイプのEV「アリア」の標準モデルを発売、三菱自動車と共同開発した軽EVも近く投入する。

    EVの本格普及と脱炭素社会への移行に備え、フォーアールエナジーは年間処理能力を22年度中に現在の3000台から5000台に引き上げる。電池を確実に回収し、再利用できる循環型システムを築ければ、浪江町の復興にとっても大きな力となるに違いない。

    EV時代の覇権を狙い、国内外の自動車各社は相次いで巨額の投資計画を発表している。車両の開発とともに、投資の多くを振り向けるのは車載用電池だ。

    30年までに30車種のEVを投入し、世界販売台数を350万台にする目標を掲げるトヨタ自動車は、電動化投資8兆円のうち2兆円を電池に充てる。航続距離を左右する電池は、EVの最重要部品ともいえ、性能の高い電池をいかに多く確保できるかが、競争力に直結する。

    EVに搭載される電池は車両コストの3割を占めるといわれる。主流のリチウムイオン電池はコバルトやニッケルなど高価なレアメタル(希少金属)が欠かせない。日産がフォーアールエナジーを通じ再利用を進めているのも、貴重な資源を有効に活用するためだ。


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