リセールバリューの低さもネックに
悪環境下での充放電の繰り返しはバッテリーの寿命を短くする。対策が行き届いていない十数年前のEVは、走行距離が10万キロを超えると、最悪の場合はバッテリー性能が60%ほどまで低下するとされていた。さすがに最新のモデルがそこまで悪化することは少ない。トヨタのbZ4Xやスバルのソルテラ、日産アリアやサクラのようなシステムによって、10万キロ走行でも90%近くまでの性能低下に抑えているという。
EV購入を思いとどまるユーザー心理はそこにもある。距離の進んだ中古車は、性能低下を理由に買い叩かれる。リセールバリューが極端に悪化するため、買い替えもままならない。
一方の内燃機関の性能劣化は少ない。エンジンとて金属の塊であるゆえ、性能劣化がないとは思えないが、パワーや燃費が極端に悪化するとは考えられない。多少手荒な乗り方を続けていても、新車時の性能はほぼ維持されるし、丁寧にメンテナンスを心掛けていれば、性能劣化はない。
最近のEVがサブスクリプションなどのリース販売を進めている理由はそこだ。リセールパリューを気にせずに乗り続けられるようなシステムにすることで、ユーザーの不安を払拭しようというわけである。
その点でEVはまだ発展途上のエネルギーシステムと言えなくもない。航続可能距離に影響するバッテリーの大容量化と、その障害となっている質量低減、そして温度に対する耐性強化が、いまEVに求められている課題である。
【クルマ三昧】はレーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、最新のクルマ情報からモータースポーツまでクルマと社会を幅広く考察し、紹介する連載コラムです。更新は原則隔週金曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【試乗スケッチ】はこちらからどうぞ。