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横浜の名建築がずらり ライトな探訪本がじわり人気

コロナ禍に伴い、旅行や外出にどこか二の足を踏んでしまうことへの反動なのか、昨年7月の発売以来、じわじわと売れ続けている旅のガイド本がある。西洋建築史の研究者、菅野裕子さんと建築物愛好者の作家、恩田陸さんが手がけた『横浜の名建築をめぐる旅』(エクスナレッジ)だ。菅野さんは「建築の素人が街歩きで気軽に楽しめる本。編集にはこだわった」と力を込める。

『横浜の名建築をめぐる旅』を執筆した菅野裕子さん(高橋天地撮影)
『横浜の名建築をめぐる旅』を執筆した菅野裕子さん(高橋天地撮影)

静かな需要

同書は、江戸時代に開港後、世界的な大都市へと発展した横浜に今も多く遺っている近代建築物にスポットをあてた。赤レンガ倉庫、日本郵船歴史博物館、旧横浜銀行本店別館、神奈川県庁、横浜税関など、個性的なデザインや建築様式で横浜を彩るさまざまな建築物が紹介されている。

書店大手「有隣堂」(横浜市中区)広報・秘書室の鈴木宏昭さんによると、数字は公表できないとしながらも、「発売以来、毎月コンスタントに少量ながら一定数が売れている。このジャンルの本としては珍しく、コロナ禍を踏まえれば、売れ行き好調と言って間違いない」と話す。エクスナレッジ編集部の関根千秋さんは「二版とは言え、需要が絶えないのはうれしい現象」と喜ぶ。

 『横浜の名建築をめぐる旅』(エクスナレッジ、1600円+税)
『横浜の名建築をめぐる旅』(エクスナレッジ、1600円+税)

菅野さんは横浜国立大学大学院「都市イノベーション学府・研究院」(横浜市保土ヶ谷区)の特別研究教員。生まれ育った横浜市で、さまざまな近代建築物の構造や歴史的意義などの調査に関わってきた。

執筆のきっかけは、民間のカルチャースクールで西洋建築を講義した際、生徒から「建築自体が好き。専門知識がなくても、多くの著名な近代建築物が残る横浜の街を散歩しながら、そのトリビアを楽しみたい」との声を耳にしたことだった。菅野さんは「同じ思いの人が潜在的に多いのだろう。本を執筆してニーズに応えたい」と思い立った。

建築物自体を楽しむ

編集方針については「読者に少しだけ見るべきポイントを教えてあげて、あとは自分なりの自由な視点で楽しんでもらえればいい。そうすれば、もしかしたら建築ファンも増えるかもしれない」と菅野さん。

数多い類書との違いはこうだ。まず従来の建築入門書は、建築の専門家寄りの切り口で、大学生や大学院生が論文やレポートを書く際に役立つと思われる学術的な内容が多かったという。これに対し、菅野さんは「建築家はこんな人で、人生はどんなで、こんなエピソードがあって、などの点には、あえて力点は置いていない」と説明。

「目の前にある建物そのものを楽しめたらいい。建築家の大御所、丹下健三さんや安藤忠雄さんを知らなくても、少しばかりの楽しむ作法を覚えたら、他の建築物と比較をしながら、どこでも知的好奇心を満足させることができる」

不二家レストランの秘密

同書の中でも隠れた名所の一つ、伊勢佐木町商店街にある「不二家レストラン」(昭和12年完成、横浜市中区)は異彩を放つ。ファサード(建物を正面から見たときの外観)は1枚の抽象画のよう。白い壁に正方形が縦横に整列し、その中をマス目を埋めるようにガラスブロックが並んでいる。

菅野さんは「このガラスブロックは室内では壁全体が光るような効果を見せるもので、当時の新しい建築表現だった」と効果を語る。この建物は戦争に突入する前の街の景色の一つでもあり、文化的価値も高いものだったそうだ。

同書の最後には、菅野さんと一緒に横浜の建築物を巡り歩いた恩田陸さんとの対談も盛り込まれ、恩田さんが思わず「小説に登場させたい」と考えた建物などを明かす。菅野さんは「理屈や知識ではなく、形から入って、建物そのものを楽しむのも一考」と期待を寄せる。(高橋天地)


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