モデルナ社製の新型コロナウイルスのワクチンが大量に廃棄されているというニュースがありました。5月末の産経新聞の記事によると、京都市で8万回分以上、新宿区では2万回分以上、福岡市でも万単位の廃棄が見込まれているということでした。2回目までの副反応についての風評で、モデルナ製ワクチン回避の流れが止まらなくなっているのでしょう。
ワクチンは日本政府が買い取っているわけですから、廃棄されたとしても、モデルナ社側に損害が発生するわけではありません。しかし、日本人にとって「モデルナ」の名前が少しネガティブな印象となってしまっているのは否定できないので、モデルナ社は今後の展開で苦労するかもしれません。今回はモデルナ社のような「創薬ベンチャー」をテーマに「リスクの大きなベンチャー」を考察したいと思います。
成功率3万分の1といわれる創薬業界
モデルナ社はハーバード大学の研究者が2010年に創業したベンチャー企業です。承認に至った製品がまだなかったにもかかわらず、起業の際には大きな期待を受けて投資を呼び込むことに成功し、2018年には超大型IPOとして話題を集めました。
この「まだ承認に至った医薬品がなかったにもかかわらず」というのが今回のポイントです。
「創薬」というのは、アイデアや新しい物質の発見をスタートとして、「うまくいって」10年近い年月が必要になります。また、予定より実験や臨床試験に時間がかかってしまうことや、途中で失敗や撤退ということになることも日常茶飯事です。
厚生労働省のレポートによれば、開発に成功する確率は2万から3万分の1です。もしあたなが「Aという病気に効くかもしれない物質を見つけた!」となったとしても、それは、2万から3万分の1しか製品化に至らない有象無象のうちのひとつに過ぎません。
また、薬の開発に成功したとしてもそれ以降の実験などに1000億円近くの費用がかかります。せっかく製品化されたと思ったら今回のモデルナのワクチンのように「ファイザーのほうが良い」ということにもなりかねない分野なのです。
このような「無謀な」挑戦を支えるには、どうすれば良いのでしょうか? 普通に考えて2万から3万分の1の挑戦をする起業家など存在しませんし、投資家もいませんね。やはり企業としてもサポートする国としても、かなりの体力が必要になってくる分野なのです。
創薬ベンチャーによる“資金的な体力”のつけ方
もちろん投資家には2~3万分の1と言われるアイデアの中から金の卵を見抜く「目利き力」も必要でしょう。しかし、ビジネスとしてはリスクを分散させて吸収させることが求められます。
ベンチャー創業者の立場としては「アイデアの時点で巨大企業に売却する」のが楽かもしれませんが、買い取る側もその後をうまくハンドルできるとは限りません。
一般的には、
- アイデアの時点で「協業」の契約
をスタートとして
- A:ヒト以外での治験の成功
- B:ヒトでの治験のスタート
- C:承認の申請
といった、開発の進捗に応じた「マイルストーン収入」というものが設定されます。もちろん、販売後は「ロイヤリティ収入」となります。重要なポイントは、失敗の可能性もある状況で「マイルストーン」を設定することです。これにより創薬ベンチャーは挑戦を続けることができるのです。
すでに成功している医薬品を抱えて安定している既存の製薬会社とベンチャー企業がリスクを許容できる範囲で分担するシステムになっています。
なぜ日本企業はコロナワクチン開発に参戦できなかったのか
今回のコロナ禍において、ワクチン開発に日本企業が参戦できなかったことは大きな話題となりました。