日本勢、技術優位も時間勝負の総力戦 イラク巡る国際競争
底流民間企業のイラク向けインフラ受注活動が活発化している。米軍撤収による戦争終結宣言が出されて2年。治安は好転していないが、世界第5位の原油埋蔵量と年率8~9%の経済成長を背景に、復興インフラ需要をめぐって世界企業が火花を散らす。競争が激化する中で、日本勢は過去に築いた技術優位の信頼を取り戻せるか。残された時間は少ない。
巨額の円借款が呼び水
昨年12月16日。都内で開催された日本・アラブ経済フォーラムのセミナーの席上、イラクのシャハリスタニ副首相は「ガス需給計画に基づく産業復興や、人材育成などに協力してほしい」と投資を呼びかけた。
日本国内でイラク政府首脳と面談できるチャンスに、三菱商事の小林健社長や東洋エンジニアリング(TEC)の永田雄志会長、千代田化工建設の渋谷省吾社長らをはじめ三井物産、豊田通商、日立製作所、日揮グループ幹部らが相次いで会談に臨んだ。大手商社の幹部は4月末に予定される総選挙を視野に「この数カ月が商談の勝負どころ」と気を引き締める。
「官は前のめり、(治安を理由に)民は尻込み」と揶揄(やゆ)されてきたイラク投資の構図は風向きが変わりつつある。目下、民間投資の最大の呼び水は政府間で結ぶ低利融資の円借款だ。日本は政府開発援助(ODA)で米国に次ぐ復興支援国。今年度もルメイラ油田の随伴ガス関連施設建設や港湾整備など、1200億円規模の円借款が計画されている。巨額の資金をめぐり、早くも水面下では日本企業同士のつばぜり合いが繰り広げられている。
ビジネスに広がり
イラクのインフラ需要は2035年までに原油生産や輸出関連で約4000億ドル、電力は約1400億ドルとも試算される。インドネシアやベトナムにも匹敵する規模だ。
さらに円借款以外のインフラ案件や、中間層の増加に伴う消費関連にもビジネスは広がりをみせる。三井物産は、隣国のヨルダン経由で紅海に原油を運ぶ総延長1000キロ超(総事業費約70億ドル)にのぼる国際石油パイプライン建設受注に名乗りをあげる。日本の鋼管技術を武器に露石油大手のルクオイルなどと競い、近く入札条件などが固まる見通しだ。
同様に住友商事は自動車サービス関連会社に出資したほか、豊田通商も変電所受注や「自動車のメンテナンス需要も大きい」(大岩秀之プラント・プロジェクト第一部長)とサービス拠点増設に動く。
円借款は相手国政府の要請が条件で、調整や入札手続きには一定の時間がかかる。だが、商機を逃さないためには「機動的な政府資金も欠かせない」(民間企業)との声も高まる。政府は国際協力銀行(JBIC)の民間との協調融資(輸出金融)を28年ぶりに再開する方向で最終調整している。ただ、融資が相次ぐかは不透明だ。
随伴ガス活用に期待
日本が政府支援に乗り出す背景には、エネルギーの安全保障もある。石油資源開発が参画する南部のガラフ油田の生産が昨年始まったが、日本の原油輸入に占めるイラクの割合は2~3%に過ぎない。「調達先の多様化を進めるためにも、重層的な関係構築は欠かせない」(経産省幹部)という。
今後期待されるのは、石油開発に伴い、現在多くを大気中に放出している随伴ガスの有効活用だ。三菱商事は随伴ガス回収事業に参画し、18年以降の液化天然ガス(LNG)輸出を計画する。一方、TECと三井物産は国際協力機構(JICA)の支援も得て、イラク政府向けに随伴ガスの生産から国内流通、消費までの青写真に相当するガス需給計画を策定中だ。
三井物産は「2020年に向けて肥料工場や石油化学で農業の活性化や産業振興による国づくりの方向性を示したい」(プロジェクト開発第二部の天野達郎室長)と意気込む。
戦後復興をめぐるイラクの巨大市場は世界の主戦場だ。米ゼネラル・エレクトリック(GE)は大型ガスタービンを受注し、仏アルストムも首都地下鉄受注で優勢にある。
中韓に加え、インドとロシアは首脳外交で昨年、ナシリヤ油田の開発と製油所建設のプロジェクトで、入札資格リストに割り込む成果をあげた。競争環境は激化する一方だ。
日本勢の最大の利点は、70年代後半以降に相次ぎ導入した発電プラントが経済制裁時代も乗り越え、今も稼働する技術への信頼感だ。だが、当時を知る親日政府幹部も退官寸前だ。
出足の遅い日本勢の間隙をぬって日本製発電プラント改修事業の一部がロシア勢に奪取された。イラクを巡る国際競争は、時間との戦いとなっている。(上原すみ子)
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