クッキングで学ぶ組織づくり&人材育成 ドコモ×静岡ガスなど地域貢献でコラボ

 

 「恥ずかしさを捨ててしっかりとアイコンタクトを取ってください」。人材研修の講師が受講生たちに呼びかけた。ここは講義室や会議室ではない。キッチンシンクや調理器具、食材が並ぶクッキングルームだ。料理をつくりながら効果的な組織づくりを学ぶ「クッキング de チームビルディング研修」が静岡市駿河区八幡の静岡ガス エネリアショールーム静岡で行われた。

 「富士山みたいにしようか」「サッカーボールがいい」「シラスにお茶…」。課題は静岡県をテーマにしたピザ作りだ。静岡市内にある企業の人事・採用の担当者ら20~30代を中心にした50代までの24人が4班に分かれて話し合っている。

 調理台でピザ生地を作り、生地の発酵を待つ間に「ピザをつくろう作戦会議」へと入ったのだ。大きな声でアイデアが飛び交うテーブルもあれば、デザインや味にこだわりを見せて、メンバーの説得を試みる者も。リーダーの色が出るのだろうか。テーブルごとに雰囲気が違うのが面白い。

 生地作りで共同作業をしたこともあり、研修の冒頭に「良いチームの条件とは」を話し合ったときと比べて活発に意見を交換している。その後、生地の上に載せる具材作りでも調理場で声を掛け合ってうまく役割を分担していく。富士山型、サッカーボール柄、駿河湾をイメージしたシーフード味など独創的なピザが次々と焼き上がった。

 清水銀行の中島杏奈さん(25)は「初めて出会った人たちだけで知恵を出し合いながら料理を作る過程が興味深い。会社での研修に生かしたい」と話す。エスパルスで営業企画を担当している最年長の林政彦さん(52)は「自由闊達な意見が出た。若い人、女性のパワーを採用して強い組織づくりに生かしたい」と刺激を受けたようだ。

 和気あいあいとピザを作り、楽しい試食タイムを経てからが研修の本番となる。調理中も講師はそれぞれのチームの動きを厳しくチェックしていた。レクリエーションから一転し、ピザ作りの過程で気づいたチームワークに求められる要素などを真剣な表情で話し合っていく。

 「料理を実際につくることで性格が分かって役割も任せやすくなる」「自分に足りないものを持っている人に影響を受けやすい」「目標は共有できたのか」など組織づくりに欠かせない意見が相次ぐ。各班のリーダーによる発表では感極まって涙ぐむ参加者もいた。 ABC Cooking Studioと共同で研修を開催したキャプランのJアカデミー事業本部コーディネーション部インストラクターの伊東絹子さんは「料理を作ることで個性が短時間で出る。アイデアも出しやすく日常業務では分からなかった意外な得分野も見えてくる」と料理を通した人材研修の利点を説明する。

 中堅、幹部と研修対象者のレベルが上がるに従って「限られた金額で買い物から行う」「全員がギリギリまで頑張らなくては完成しない」などと難易度を高くしていくことも検討しているという。

 静岡ガスのリビング営業部エリアサポート担当マネジャーの小林栄次さんは「同じライフラインを預かる企業として地域貢献という共通のコンセプトを持っている」と話す。ABC Cooking StudioはNTTドコモのグループ企業の1つ。インフラ企業同士が地域貢献という目的で1つになったことで実現したコラボレーション企画だった。また「ショールームの新しい活用法としても非常に参考になる。スピード調理に強いことなどガスの火の良さを知ってもらう機会になったのではないか」と今後の展開にも期待を示した。

 一方、ABC Cooking Studioはこれまでも自社の内定者向けにチームビルディングを目的とした料理教室を開いてきたというが、営業企画部チーフの徳永達志さんは「ただ仲良くなって終わりという感じがあった」と振り返る。そして「運営するキッチンスタジオをもっと多くのお客様にご利用いただくには法人のお客様にもご活用いただくことが必要。そのためには研修の要素を強くする必要があると考えた」とキャプランと連携するまでの経緯を説明した。

 地域貢献から始まったユニークな人材研修の取り組みがどのような広がりを見せるのか注目したい。