レクサス、輸入車から買い替え増加 節目の10年、夢は世界が認めるブランドに

 
レクサス国内営業部の成瀬明部長と、高性能クーペの「RC F」

 トヨタ自動車の高級車ブランド「レクサス」が今年、国内で販売を始めてから10年を迎えた。確かな実績を積み重ねて着々と顧客を増やし、いまでは26万人のオーナーを抱えるまでに成長。高品質・高性能なイメージに加え、最近ではクールでオシャレといった印象も定着してきた。日本デビューから歩んできた軌跡や、更なる飛躍に向けた“次の10年”について、レクサス国内営業部の成瀬明部長に話を聞いた。(文・カメラ 大竹信生)

 レクサスを購入した理由の1位は「スポーティー」

 レクサスが北米で先行販売を始めたのは、いまから26年前の1989年。それから16年後の2005年8月に、ついに日本でもセールスを開始した。日本の高級車市場はすでにメルセデス・ベンツやBMW、アウディといった名だたる海外メーカーがひしめく群雄割拠の状態。成瀬氏は「レクサスは後発ブランドだったので、高品質の商品に加えて、最高の販売とサービスで“新しいプレミアムブランドを作ろう”を合言葉に始めました」と当時を振り返る。

 まず商品面では、2車種で立ち上げたラインアップを増やすことに注力した。これまでの10年間で主力のセダンのほか、顧客のニーズに合わせてハッチバックやスポーツカー、SUVを次々と投入。デザインにも磨きをかけるなど、クールなイメージも訴求してきた。

 これらの努力はレクサスに対するイメージの変化にも表れ始める。もともとライバルメーカーをしのぐ高級感や高品質には定評があったが、昨年はレクサスを購入した理由の1位に初めて「スポーティー」が選ばれた。ほかにも「洗練されている」「かっこいい」などがランクイン。昨年発売したSUV「NX」やスポーツクーペ「RC」がこれらの理由でヒットするなど追い風となり、外国車から買い替える顧客が増えているという。「輸入車ユーザーを25%ほど吸引したほか、若いお客様も増えています」。

 レクサスがこだわる『唯一無二』のデザイン

 レクサスが次の10年で目指すのが、「感動や驚きのあるブランドを作ること」だ。成瀬氏は商品面でユーザーに「感動」を与えるポイントとして、「デザイン」「走り」「驚き」「高品質」の4つを挙げる。

 「レクサス代表の福市(得雄氏)は、デザイナー出身です。彼がいつも口にするのが『唯一無二』。ほかと似ているぐらいなら出さないほうがいい、と。低重心でクールな、レクサスらしいデザインを作り込むことに徹しています」

 「驚き」については、いかにも日本発のプレミアムブランドらしい考え方だ。「ぜひ日本の匠の技に注目して欲しいですね。一部車種に採用している縞杢(しまもく)の木目ステアリングは、1本を作るのに20工程、約5週間を要します。丸みを帯びたハンドルに、真っ直ぐの横縞模様を弛ませることなく貼り付ける。これは相当難しい技術です」。経験豊富な職人が、0.2ミリの薄さにスライスした横縞模様のシートを、湾曲したステアリングにシワひとつ作らず接着していくのだ。

 感動や驚きの提供は、もちろんマーケティング面でも意識している。宙に浮くスケートボードが人を乗せてパーク内を滑るテレビCMには、多くの人が驚嘆したはずだ。

 流通面ではどんなサプライズを見せてくれるのだろうか。成瀬氏は「もちろん店舗に来てくださった方にも感動や驚きを届けたい。次の10年で『楽しいね』と言ってもらえる店舗を作っていきたいですね」と語る。

 「1000万円のレクサスを売るのは本当に不安…」

 具体的には「クルマ好きの方が来てもしっかりと対応できるスペシャリストをもっと増やしたい。一緒に楽しんで話ができる『語り部』を、各店舗に1人ずつ置いていきたいなと。そして、店舗内にレクサスのスペシャリストや、お客様同士でお話ができるような『語り場』を提供したい」と今後の計画を語る。

 成瀬氏はレクサスの優位性の一つとして「今までもこれからもカスタマーサービス」と自信たっぷりに語る。

 「商品作りを頑張るのはメーカーとして当たり前です。販売店の皆さんも、最高の販売とサービスでおもてなしをして、少しでも早く『レクサスっていいね』と言ってもらえるように、これまでの10年間を取り組んできました。その結果、今回のJ.D.パワーの顧客満足度調査で、9年連続で1位を獲ることができたのだと思います。これは間違いなくレクサスの財産であり、強みです」

 現在、レクサスのオーナーは26万人いる。輸入車からの買い替えや若者からの支持が強まるなど、顧客層の幅が広がったほか、レクサスを乗り継ぐロイヤルカスタマーが7割を超えているそうだ。

 ただし、これまでの道のりは楽ではなかったと成瀬氏は言う。「10年前にレクサスを売り出したとき、販売スタッフの中には『いままで150万円のクルマしか売ったことのない自分が、これから1000万円のレクサスを売らなくてはいけない。本当に不安です』と口にする社員もいました」。

 販売店にやってくるのはセレブと呼ばれる人や医者、地元のオーナー企業の社長といった富裕層。そういった客層にレクサスや自分の店舗、さらには自分のことを好きになってもらうために、販売スタッフやメカニックはいろんな本を読んで勉強をするなど、「顧客としっかり会話ができるように」それぞれが努力を重ねてきたそうだ。

 レクサスは9月に最上級SUV「LX」を国内市場にも投入した。今秋以降には、新型「RX」の発売も控えている。

 「車高が高い『LX』は、クルマが停止したときにエンジンを切ると、乗り降りがしやすいように車高が50ミリ下がります。最新の空調システム『レクサス クライメイト コンシェルジュ』は、ボタンを押すだけで車内を一番快適な状態にしてくれます。乗車人数や車外・車内の温度、外から入ってくる光の量など全てを計算して、一人ひとりが最も心地よい状態に調整します」

 ウインドウを閉めるときは、最後にフッとスピードが落ちて静かに閉まる工夫もされている。障子を丁寧に閉める仲居の感覚だという。

 レクサスはこれら日本のおもてなしの心を具現化しているのだ。「レクサスはメード・イン・ジャパンです。私たちが世界に誇る日本を現しているブランドだと思います」。

 「豊田章男社長からは『レクサスはとにかくブランドを作るんだ』と…」

 次の10年はすでに始まっている。成瀬氏は「豊田章男社長から『レクサスはとにかくブランドを作るんだ』と言われています。だから勇気を持ってブランドの構築を進めていきたい。皆さんに『レクサスは感動や驚きを届けるブランドだよね』と言ってもらうことが、今後10年の最優先事項です」と言葉に力を込める。

 これから挑むブランド作りは、さらに先にあるレクサスの「夢」にもつながる。「日本人が考えて、モノづくりの技術を生かして作ったクルマが、世界でプレミアムブランドとして認められることが私たちの『夢』です。そのためにはまず、母国で認められなくてはいけません。舶来志向の強い日本のマーケットに挑んできたこの10年は、壮大なチャレンジでした。私たちはまだまだ挑戦者です。販売店の皆さんと『一生懸命やっていれば夢はいつか叶うよね』と話しながら、次の10年を頑張っていきたいと思います。その中で、同じ日本人として応援して頂ければありがたいなと思います」。

 この10年間で着実にファンを増やしてきたレクサス。もうじき発売する「RX」の新型車は、見た目の美しさでも私たちに「感動や驚き」を与えてくれるはずだ。次の10年でレクサスはどんなサプライズを見せてくれるのか-。今後の動向からますます目が離せない。