すぐには埋まらない差 レクサス「レスラーRX」のプロレスに込めた想い

提供:PRESIDENT Online

 プロレスでレクサスのエピソードづくり

 「レクサスの国内展開が始まって今年で10周年を迎えました。10年というと長いのか短いのか、レクサスのブランドを語るには、欧米諸国のブランドに比べて短いと思います。ブランドイメージをつくるためには何かしらのエピソードが必要です。今日はお招きしたみなさんのために、いろいろなコンテンツを用意しました。ぜひエピソードづくりについて語っていただきたいと思います」

 トヨタ自動車は10月26日、東京・渋谷のヒカリエで全面改良したレクサス「RX」を披露するパーティ「レクサスRXアメージングナイト」を開催。レクサスインターナショナルの福市得雄プレジデント(トヨタ専務役員)はこう挨拶した。

 そして、会場を仕切っていた幕が上がると、そこにはプロレスの特設リングが現れた。昨年の「レクサスNXアメージングナイト」では、「NX」が東京タワーの下で泡まみれになったが、今年はプロレスの演出だ。

 テレビCMと同じく後頭部に「AMAZING」と刻まれたマスク「レスラーRX」が登場、ヒールレスラーの「Mr.ベイダー」と対戦した。序盤戦はレスラーRXがMr.ベイダーの相次ぐ攻撃を受けてピンチの連続。

 ところがリングサイドに展示されていた新型車「RX」からいくつもの青いヒカリがレスラーRXに移動すると、パワーを与えられたのかのように元気を取り戻し、最後はMr.ベイダーにフォール勝ちした。

 試合内容は少し迫力が欠ける面は否めなかったが、レクサスはこのプロレスを通してRXのイメージである「エレガントさ」と「タフさ」の二面性を表現し、そのエピソードをつくりたかったようだ。実は、RXには製作過程でも“エピソード”が残っている。

 「ずいぶんイメージが違うが、それでいいのか」

 それはクルマが完成し、豊田章男社長に見せた時のことだ。豊田社長はすぐに「最初のデザインとずいぶんイメージが違うが、それでいいのか」と突き返してきたそうだ。そこで、福市プレジデントをはじめとしたRXの担当者らは2カ月の猶予をもらってつくり直した。

 「失敗するにしても、攻めて失敗したほうがいい。守りに入って失敗したら何が残るのか。どこが良かったのか、悪かったのかもわからない。やりきらなかったら、また同じことをやらないといけなくなる」と福市プレジデントはその時の想いを語る。

 同時に今のレクサスに必要なのは「成功よりも成長」と、担当するメンバーを育てることに主眼を置いて、つくり直しに取り組んだという。

 そして完成したのが、今回披露したRXだったわけだ。「人生にはオンとオフがあり、オンは理性、そしてオフは感動や感情ではないでしょうか。新しいRXはオンとオフを両立したクルマです」と福市プレジデントは満足そうに話す。

 レクサスの国内販売は決していいとは言えない。2011年と12年にメルセデスベンツやBMWを上回ったものの、13年にはメルセデスに、14年にはBMWにも抜かれ、高級車ブランドで3位に甘んじているのだ。

 なんとかして今回のRXで巻き返そうというわけだが、その差は言うまでもなくブランド力で、なかなかすぐに埋められるものではないだろう。同じ価格なら、メルセデスやBMWを買いたいという人が多いからだ。

 「レクサスならではのオリジナリティをちゃんとつくっていき、ドイツ人にレクサスを買ってもらう。それができないと、高級車市場で生き残れないと思う」と福市プレジデントは強調する。そのためにはまだまだやることが多く、レクサスのブランド構築へ向け、これからも模索が続きそうだ。

 (ジャーナリスト 山田清志=文)