老害?東芝・西室氏の相談役退任 再生へ過去との決別も不可欠だ
高論卓説現役の非力あぶり出す“相談役ガバナンス”
利益水増し問題を起こした東芝は、約1万人の人員整理を迫られ、今3月期に5500億円の連結最終赤字を見込む。その東芝の相談役を辞する意向を、日本郵政の西室泰三社長(80)が先日表明した。産経新聞によると「最近、東芝の話をすると老害だといわれる」と、理由について述べたという。
西室氏はかつて東芝の社長、会長を務め、利益水増し問題で損害賠償を請求されている歴代3社長の大先輩である。現在の室町正志社長以下、再建に当たる新しい役員体制の骨格作りのために陰で尽力したとされる。
これが「老害」と批判されるゆえんだが、企業でトップOBが重要な人事などに影響力を行使するいわゆる相談役ガバナンスは古くて新しい問題である。
歴史のある企業では、一線から退いたトップ経験者を相談役や名誉会長、最高顧問などさまざまな形で遇することが珍しくない。なかには執行部を代表する代表取締役を兼ねる人さえいる。
このため隠然たる存在として経営に介入する相談役も出てくるわけだ。しかし視点を変えると、現役の経営陣がひ弱すぎるという問題も浮かび上がる。
高度経済成長期に業界再編成などで黒子役として活躍した日本興業銀行(現みずほ銀行)の中山素平頭取(故人)は、爽やかな引き際が語り草になっている。代表権を持たずに会長になり、それも2年で相談役、特別顧問に退いた。勲章を求めず、晩年は国際大学の理事長を務めた。
しかし1991年、興銀が大阪の料亭の女将(おかみ)による架空預金事件で巨額の焦げ付きをこしらえて、経営トップの責任問題が起きたときである。特別顧問にすぎなかった中山氏が人事をさばいた。相談に来た頭取に「君まで辞めたら、興銀が大混乱になる」と留任させた。代わりに会長と取締役相談役の辞任によって、事態を取りあえず収拾した。
「大阪の銀行には、嗅覚を働かせて取引しなかったところもあったのに、恥ずかしい」。こう中山氏は当時、怪しげな女将を安易に信用した後輩たちの不明を嘆いていた。興銀の首脳部は責任問題の処理を自分たちで決めかねて、とうの昔に経営から離れていた中山氏の判断を仰がざるを得なかった。
宅急便を始めたヤマト運輸(現ヤマトホールディングス)の小倉昌男元社長(故人)は現役引退後、障害者福祉に情熱を注ぎ、模範的な第二の人生を送った人物として知られる。だが小倉氏は会長退任後、代表取締役相談役だったときがある。
さらに2年で会長に復帰したのだから、表面的には老害とみられてもおかしくない。当時、ヤマトは宅急便の大成功で経営が甘くなっていた。たがを締め直すのは、大御所の小倉氏でなければ難しかった。立て直しを終えると会長を2年で辞し、今度は相談役にも就かず会社からきっぱりと離れた。
当時「後継者をきちんと育てなかった責任があるのでは」と尋ねたら、小倉氏は「そうだね」と率直に認めた。現役がしっかりしていれば、OBに再びかじを取ってもらう必要はない。
現役を引退した相談役などの力を借りるのも、老害を許すのも、現役経営者が非力だからだ。
必要悪であろうと相談役ガバナンスに頼る企業は正常とはいえない。東芝が真に再生するためには、こうした過去との決別も不可欠である。
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【プロフィル】森一夫
もり・かずお ジャーナリスト 早大卒。1972年日本経済新聞社入社。産業部編集委員、論説副主幹、特別編集委員などを経て2013年退職。著書は「日本の経営」(日本経済新聞社)、『中村邦夫「幸之助神話」を壊した男』(同)など。65歳。
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