“日の丸液晶”生き残るカギは? なりふり構わぬ中国増産…供給過剰の恐れも
経営再建中のシャープから切り出す液晶事業をめぐり、官民ファンド、産業革新機構傘下の中小型液晶大手、ジャパンディスプレイ(JDI)が買収に乗り出す見通しだ。台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業も好条件で事業買収を打診するなか、日の丸液晶連合で競合する韓国勢などに対抗する構えだ。ただ、液晶をめぐっては、中国勢が収益悪化を覚悟で生産増強に動いており、太陽光パネルや鉄鋼が陥った中国発の供給過剰の泥沼に陥る危険性がある。
液晶切り離し
シャープが液晶事業の分社化について公式に認めたのは10月30日だった。平成27年9月中間連結決算の会見で、高橋社長は「いろんな可能性を検討し、複数社と協議している。(売却や出資受け入れなどの)形は協議を続けていく中でみえてくる」と述べた。
会見で交渉相手は明らかにはしなかったが、売却や出資受け入れに向け産業革新機構と協議しており、傘下のJDIが買収を提案する方向だ。
一方で、台湾・鴻海精密工業とも交渉している。関係者によると、鴻海は現在の事業価値に50%を上乗せして最大2500億円の出資を提案しているという。
最終的には、シャープは主力取引銀行の思惑も踏まえて判断するとみられる。
生産設備の選別も
JDIが、シャープの液晶事業の買収に動くのは技術力を必要としているからだ。そもそも液晶は、シャープが電卓の表示装置として世界で初めて実用化した技術で、その後もカラー化や高画質化などでリードしてきた。
JDIは、ソニーや日立製作所、東芝の3社が液晶事業を統合して設立。タッチセンサーをパネル内に組み込んだインセル型の技術を駆使して、シャープの得意先だった中国のスマートフォンメーカーを切り崩したJDIだが、高精細・低消費電力が特長のシャープの独自液晶「IGZO(イグゾー)」技術などを高く評価しており、シャープの先端技術を担う亀山工場(三重県亀山市)の技術者や生産設備を中心に取得を目指すとみられる。
スマホや車載向け、ノートパソコン向けの中小型液晶で、JDIとシャープは韓国LGディスプレーに次ぐ世界2位と3位。単純に統合すると、特定製品のシェアが高まって独占禁止法に抵触する恐れがあるためJDIは取得する生産設備などを選別する可能性がある。
ただ、日の丸液晶が誕生したとしても、中国の液晶メーカーの設備増強がリスクとして待ち受ける。
供給過剰の波を乗り切れるか
中国の液晶最大手、京東方科技集団(BOE)は昨年12月、安徽省合肥で最先端の液晶工場を着工した。今後3年間で2兆円を投じて大量生産する態勢を構築する。すでに価格下落が激しい液晶でコスト競争を仕掛け、日韓台勢を追い上げる構えだ。
合肥で着工した工場で生産するのは、中国で需要が拡大する65型以上の大型テレビ向け液晶パネルだが、シャープも大型テレビ向けの亀山工場で中小型液晶の量産態勢を整えたことを考えると、需要動向で日の丸液晶連合のライバルとして立ちはだかることも考えられる。
さらに他の中国の液晶メーカーも設備増強を進めているといい、業界関係者からは「すぐに供給過剰に陥る」との声も上がる。
これまでも中国では太陽光パネルや鉄鋼などでなりふり構わぬ増産に走り、深刻な供給過剰を招いたことがある。
太陽光パネルの場合は、乱立したメーカーが増産に向かった結果、欧米メーカーの不振の原因となったのにとどまらず、中国でも経営破たんが相次いだ。鉄鋼でも過当競争が中国国内の鉄鋼需要の低迷とともに問題となっている。
中国勢が自分たちの事業の収益を悪化させてでも生産能力を増強させてくる消耗戦に巻き込まれるのを防ぐためには、日本勢には技術優位性を保っておくことが求められる。
シャープの「IGZO」は、次世代ディスプレーとして期待される有機ELの高精細・低消費電力化にも応用できるといい、近い将来に主戦場となる分野でもJDIの競争力向上の源泉となりうる。
それでも中国発の液晶の供給過剰の荒波の衝撃は大きいとみられ、日の丸液晶連合が誕生したとしても難しい舵取りが必要になりそうだ。
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