小学生に起業家マインド研修 セルフウイング・平井由紀子社長
政府は成長戦略を加速するため、ベンチャーの創出を重点課題として掲げており、企業の開業率を現在の4%台半ばから欧米並みの10%台に引き上げることを当面の目標として掲げている。これを達成するには小学生のときから起業意欲を駆り立て、「創業することも一つの選択肢」と考える子供を一人でも多く増やすことが不可欠。その意味で、ワークショップ型の疑似起業体験を通じて仕事と会社の仕組みを学ぶとともに、起業家マインドを身につけるための研修プログラムを提供するセルフウイングの役割は重要だ。
◆米ベンチャーが転機
同社の創業者でもある平井由紀子社長は早稲田大学を卒業後、留学関連の情報を取り扱う出版社に就職した。バブルの頃は仕事に脂が乗りきっていた時期で、3食を会社で済ますことも頻繁だった。「そんなに楽しい時代だったのか、ということを後で知ってびっくりするほど忙しかった」と振り返る。
10年ほど勤めた後の1990年代半ば、米国に本社を置くベンチャーの日本法人に移り、マネージングディレクターという役職に就いた。これが人生の転機となった。
現在でこそ「ベンチャー」という言葉は浸透しているが、当時は市民権を得ていなかった。平井さん自身、日本法人のトップに会って初めてベンチャーの意味を認識。同時に「こんなに若い人が日本に来てリーダーに立てるのか」と感嘆した。やがてベンチャーをめぐる新たな流れが加速し、その真ん中に身を置くようになった。
こうした経験を踏まえ大学院に入学し、社内起業と子供への起業家教育を研究する教授について学んだ。
米国にはベンチャーが育ち雇用を促進するという構図がある。日本でも戦後に生まれた企業が、復興を支えた。そんな事例とともに、起業が盛んな国は子供の頃から起業家教育に熱心なことを知り、この分野を専門的に研究・追求することになった。そして大学院生の2年目に当たる2000年。早大発ベンチャーとしてセルフウイングを設立した。
プログラムのコンテンツを作成し教師を派遣、実際にワークショップを開催して収入を得るのが同社の事業スタイル。大人になってから起業マインドを醸成するのは難しいだけに、子供の時期に土台を築いておくことが必要との考えに基づいている。
受注先は後継者不足に悩む商工会議所など。地域の小学生を集めてプログラムを実施するのが一般的なパターンだ。
例えば東京都板橋区立企業活性化センターは小学校4~6年生を対象に「子ども起業塾」を実施。信用金庫など地域金融機関の協賛・協力を得て10年から夏休み・冬休みの期間中に、継続して開催している。地域の将来を担う経営人材を育成するのが目的だ。
◆仮想会社で工程体験
ここで活用されているプログラムが「セルフウイングV-kids」。4~6人のチームで仮想の会社を立ち上げ、「事業計画を作成する」「銀行から借り入れる」「商品を製造」「広告・宣伝」「販売する」「決算報告書の作成」「利益の分配」-といった工程を体験する。このプログラムを通じ、チャレンジ精神とコミュニケーション力、創造力、行動力、勤労観を身につけてもらうのが目的だ。
プログラムは小学校高学年向けから社会人向けに至るまで、5つによって構成。これまで国内外で350を超えるプログラムを実施、提供している。こうした実績を踏まえ平井社長は今後、アジアでの事業展開に本格的に取り組む計画だ。(伊藤俊祐)
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≪Q&A≫
■ベトナムで幼稚園から教育活動
--アジアではどういったビジネスモデルを計画しているのか
「日本とはまったく異なる形態だ。第1弾としてベトナムに進出。中部最大の都市であるダナンにセルフウイングベトナムを設立した。幼稚園から社会人に至るまでの教育活動を行い、『日本で働きたい』といったニーズにも応えるようにする。日本のコンテンツを活用して創業にも挑戦してほしいので、その支援も行う。また、事業の安定化を図るため、ベトナム進出に意欲を示す日系企業のコンサルティングも手掛けていく」
--ベトナムに着目した理由は
「自分で学費を払える程度まで、経済が成長しており、教育が事業として成り立っているからだ。ただ、ハノイとホーチミンには日系企業の進出が活発なので、今後さらなる成長が見込まれるダナンに拠点を置いた。具体的には、現地のパートナーとダナン市による支援の下、インターナショナルスクールにするための準備を始める。ダナン市は日本式の教育に対する期待度が極めて高い。人口は120万人なのに、日本式幼稚園は700人待ちという事実が立証している」
--ダナンで事業モデルを固めた後は、どういった構図を描いているのか
「まずはホーチミンかハノイに進出する予定。また、大学院時代にお世話になった指導教官が、退官した後にASEAN(東南アジア諸国連合)で活躍しているため、これを足掛かりにして現地で発信していきたい」
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【プロフィル】平井由紀子
ひらい・ゆきこ 早大院修了。2000年3月セルフウイング設立、現職。東京ニュービジネス協議会理事などを務める。埼玉県出身。
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【会社概要】セルフウイング
▽本社=東京都新宿区西早稲田1-22-3 早稲田大学インキュベーションセンター
▽設立=2000年3月
▽資本金=4700万円
▽従業員=7人
▽事業内容=起業家マインドを身につける研修プログラムの提供
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