ホテルや百貨店、多言語放送など訪日客向けに地震避難対策

 
ヴィラフォンテーヌ上野の事務室に掲示されている非常時に放送するための外国語の文例=4日午後、東京都台東区

【東日本大震災5年】

 災害時に外国人客の安全を守るため、ホテルや百貨店が外国語による館内放送を準備するなど対応を急いでいる。地震がほとんどない地域から訪れる訪日客も多く、揺れを感じるとパニックになりやすいと想定。冷静に避難を呼び掛けられるよう知恵を絞っている。

 人気観光地の東京・浅草に近いビジネスホテル「ヴィラフォンテーヌ上野」は1月12日、外国人客を想定した地震防災訓練を行った。

 フロントスタッフが館内放送を通じて「地震が発生しました。落ち着いてください」とアナウンス。その後に英語と中国語、韓国語の3カ国語で同様の内容を語り掛けた。部屋を回って取り残された人がいないか確認したり、避難を指示したりする訓練も実施した。

 同ホテルの客室数は186室で、宿泊客の半数以上が外国人。フロントの勤務はシフト制で夜間は2、3人になる。外国語が堪能でないスタッフも戸惑わないよう、非常時の文例を3カ国語で事務室の壁に掲示している。

 責任者の高橋喜一さんは「東日本大震災の時は外国人のお客様に何が起きたか説明を求められた。まずは安心してもらうことが大事だ」と話す。

 百貨店も対策に乗り出した。高島屋は昨年11月に全店舗で災害時の館内放送を多言語化した。緊急地震速報が出ると、日本語、中国語、英語、韓国語により自動で案内を流す。素早く避難に移れるよう、放送時間が長くなりすぎないよう工夫した。

 店内の震度計が5以上になると、頭を保護し、エレベーターやエスカレーターを利用しないよう放送で指示する。高島屋の広報担当者は「外国からのお客様が非常に多い。日本人と同じように安全を確保したい」と語る。

 一方、企業側には戸惑いもある。訪れる観光客の母国語はさまざまで、英語が理解できない客も多い。多言語での対応をどこまで進めればよいかという線引きは難しく、別の百貨店は「まだ100%の準備ができていない」という。

 東京都は2013年、ホテルや観光関連の企業向けに、外国人客への地震災害時の対応マニュアルを作成した。「地震そのものを理解できない」「建物の安全性など疑問を尋ねる」など、外国人ならではの行動心理を想定しなければならないと啓発する。

 都の担当者は「いざとなると日本人とは違った対応が求められることを念頭に置いて、事前準備や防災訓練をしてほしい」と話している。