アサヒ、ビール製造の省エネ技術 煮沸時間短縮に独自製法開発
アサヒビールが、ビール製造の省エネ化に知恵を絞っている。ビール醸造時の煮沸時間を短縮できる独自製法を開発したり、製造工程で冷熱を回収して再利用するシステムを導入したりするなど複数の環境技術を組み合わせて、消費電力や二酸化炭素(CO2)排出量の削減を実現している。
逆転の発想
ビール製造工程における環境技術の代表がPIE煮沸法だ。一般的にビールの製造工程は「仕込み」「発酵」「熟成」「容器への充填(じゅうてん)」の4つ。PIE煮沸法は最初の「仕込み」工程で用いられる環境技術だ。仕込みでは、ビールの原料となる麦芽やホップが持つ臭みを取り除くため、麦汁にホップを加えて煮沸する。しかし、ホップの臭みを取り除くには、麦芽の臭みを取り除くよりも長時間煮沸する必要があった。つまりホップの臭みを取り除くために、煮沸時間が長くなってしまう。
同社によると、麦汁の煮沸はビール工場におけるエネルギー消費量の約4分の1を占めるという。それだけに麦汁の煮沸時間が短縮できれば、省エネ化やコスト削減につながる。
「ホップと麦汁を別の釜で煮沸したら煮沸時間の短縮につながるはずだ。こんな逆転の発想からPIE煮沸法は誕生した」。経営企画本部社会環境部の内田光喜課長補佐はこう話す。従来の煮沸釜本体の約50分の1の別の釜(PIE)を用意し、ホップはそこで煮沸した。ホップの臭みを取り除いてから麦汁を煮沸する釜に投入するため、煮沸時間がこれまでよりも約30%短縮。さらに、これにより煮沸工程で発生するCO2排出量も従来比約30%削減を実現した。消費電力の大幅削減にもつながったという。
もっとも「導入に至るまでは試行錯誤の連続だった」と内田氏は話す。煮沸温度や釜の中の圧力の調整などで問題が発生したが、一つずつ克服し導入にこぎつけた。PIE煮沸法は2008年に吹田工場(大阪府吹田市)に導入したのを皮切りに、現在では国内全8工場のうち5工場で導入している。
うれしい誤算
環境だけでなく、ビールの品質の向上にもつながるといううれしい誤算もあった。煮沸時間の短縮により、ビールの泡持ち時間を左右するとされるタンパク質の量が増加。これにより消費者はより泡持ちの良いビールを楽しめるようになった。
同社のビール製造工程における省エネ技術は、PIE煮沸法だけにとどまらない。
ビール系飲料の製造工程で冷熱を回収し、再利用する新システムを導入している。ビールは一般的に煮沸した麦汁を10度前後までに冷やして酵母を加え、貯蔵タンクで約0度の低温で数十日間ほど熟成させる。このため、缶や瓶などの容器に充填)する際のビールの温度は約4度と冷えた状態にある。しかし、その状態で充填すると結露が発生するため、常温に戻す必要がある。これまでは常温に戻すために温水や蒸気などが利用されていたが、熱交換器などで構成された新システムで充填前に冷熱を回収し、他の製造工程で再利用している。
回収した冷熱は酵母を加える前に、麦汁を冷やす際に利用している。昨年夏に新システムを導入した吹田工場では最大236キロワットの節電効果につながり、CO2排出量も約4%削減したという。現在のところ、新システムの導入は博多工場(福岡市博多区)と吹田工場の2カ所だが、将来は広げていくことも検討している。(松元洋平)
関連記事