遠隔診療にベンチャー続々 利益よりも将来性、報酬改善が普及の鍵

 
訪問看護師(左)が持ってきたタブレット端末のテレビ電話で主治医と話す藤沢昭さん=1日、高松市内

 ITの普及で身近になったテレビ電話などを活用して医師が患者を診察する遠隔診療への関心が高まっている。長く原則禁止と解釈されてきたが、厚生労働省が昨年出した通知が事実上の解禁と受け止められ、ベンチャー企業が相次ぎサービスの提供を始めた。だが、健康保険では遠隔診療をしても医療機関に支払われる報酬は低く、どこまで広がるか未知数だ。

 ◆事実上の解禁通知

 香川と徳島の県境山間部に位置する高松市塩江地区。車1台がやっと通れる険しい道を市民病院塩江分院の訪問看護師、山崎さやかさん(38)が運転していく。藤沢昭さん(87)は山の中の一軒家に1人暮らしだ。

 「体調はお変わりないですか」。山崎さんが持ってきたタブレット端末の画面から、塩江分院の主治医が語り掛ける。藤沢さんはこたつに入りっ放しのため、足に低温やけどをしていた。山崎さんが端末のカメラを患部に向け、医師が確認。緊急性はなさそうだった。

 藤沢さんは「症状を言ったら調べてくれるし、薬も出してもらえるのでありがたい」と安心した笑顔を見せた。

 ただ塩江分院は、テレビ電話の診察について診療報酬は受け取っていない。香川県は遠隔医療で国の特区に指定されておりあくまでその事業の一環だ。

 厚労省は従来「診療は医師の直接対面が基本」として、遠隔診療は離島や僻地(へきち)、慢性疾患などでの例外と位置付けてきた。同省の2014年の調査によると、遠隔の在宅診療を手掛ける病院は全国で18カ所、診療所でも544カ所にとどまる。

 しかし、ITの高度化やデジタル端末の普及で、政府の規制改革会議から見直しを求められた同省は昨年8月に通知を出して、離島や僻地などは例示であって限定ではないことを明確化した。

 これを受け、インターネットで医療情報サービスを展開する企業が、都市部の診療所などに相次いで遠隔診療システムの提供を始めた。多忙な会社員らがターゲットだ。

 医師紹介を手掛けるMRT(東京)はIT企業と組み、スマートフォンで医師の診察を受けられる「ポケットドクター」という事業を4月から開始予定だ。全国約1300の医療機関が参加する。初診は対面の必要があるが、2度目以降はテレビ電話で受診でき、保険も適用される。

 一定の料金を払うと医師に健康相談できる保険外のサービスも加える考えで、今後3年で1万医療機関の参加を目指す。

 ネット上で病気事典などを提供するメドレー(同)は、クレジットカードでも支払える同様のシステム「CLINICS」を開発、複数の診療所が導入を決めた。薬が必要な患者には自宅に処方箋を配送する。

 都内で小児科診療所4カ所を開く医療法人社団ナイズも、親が頻繁に連れてくるのが難しい子供らを対象に、1月から独自に保険適用で遠隔診療を始めている。

 ◆「国民全体の利益に」

 普及の壁になっているのが診療報酬だ。テレビ電話による診察で医療機関が得る報酬は原則的に電話再診料(720円)だけだ。他にもさまざまな報酬が入る対面診療に比べると、収入は1、2割に減ってしまうという。

 そのため新規参入の動きは、利益よりも将来性に期待して他社に先駆けようという側面が強い。

 日本遠隔医療学会の原量宏会長は「企業がそれぞれの方式で医療機関を囲い込むのではなく、標準化して進めるべきだ」と指摘。その上で「適切に使えば、生活習慣病のコントロールや医療の効率化、介護する家族の負担軽減にもつながり、国民全体の利益になる」として、国に報酬の引き上げを求めている。