自動運転 難しい「命の優先順位」

人工知能時代を生きる
低速で自動運転する小型電気自動車=北九州市の北九州産業学術推進機構

 ■人間が仕込む究極の判断

 かつては夢の乗り物といわれた自動運転車の実用化が現実味を帯びてきた。障害物を感知する技術や、道路状況を見極める人工知能(AI)の進歩は目覚ましく、日本自動車工業会は2030年までに人が運転に一切関与しない「完全自動運転車」の普及を見込む。交通事故の減少だけでなく、過疎地の高齢者向けの移動手段としても期待は高まるが、テクノロジーだけではクリアできない問題も、持ち上がっている。

 将来は完全自動運転車の開発を目指している北九州産業学術推進機構(北九州市)。研究に携わる大屋勝敬氏(55)は「暗闇で対象物を見分けるカメラも開発され、センサーの性能向上は日進月歩。技術的な課題はいずれクリアできる」と予測する。高速道路の逆走やアクセルとブレーキの踏み間違えによる急発進など、ヒューマンエラーによる事故の多くは根絶が可能になるとみる。

 一方で、大屋氏は「自動運転になれば事故は起きないというユーザーの思い込み」を懸念する。公道を走れば予測不能な事態は常に起き得る。急な飛び出しがあると、人と同じく自動運転車も止まることはできない。だが、当事者や社会は「機械による事故」をどこまで許容できるだろうか。

 いま開発者を悩ませているのは次のような問題だ。自動運転車に乗っていたら、目の前に子供が飛び出してきた。ブレーキは間に合わず、急ハンドルで回避できるが、ガードレールにぶつかり搭乗者の自分が死ぬかもしれない。AIはどちらを助けるようにプログラムされるべきか-。

 「子供を救いたいのは当然だが、搭乗者を守ってくれない車に乗りたいユーザーはいないだろう」と話すのは、ロボットの法的問題に詳しい小林正啓弁護士(53)。緊急時の判断基準は「『人間優先、搭乗者優先、その上で被害を最小限にする』といった原則に基づいて運用することになるだろう」と指摘する。

 優先するのはあくまで人間で、中でも搭乗者を最優先に考える。犠牲者が複数出そうなら被害を最小限にする方法を選ぶ、という具合だ。だが、搭乗者の軽いけがと通行人の命を比べた場合の優先順位など、状況の設定は一筋縄ではいかない。

 「ある人を助けるために、他の人を犠牲にすることは許されるのか」。私たち人間も簡単に答えを出せない究極の難問だが、AIに仕込む倫理や判断基準は、その人間が決めるしかない。

 小林弁護士は「最終的にはロボットが人間の生き死にを決めてよいのかという話にもつながる。専門家任せにせず、多くの人が関心を持つべきテーマだ」と話している。