渡邊五郎 三井物産元副社長(21)
トップの素顔■背中を押してくれた「3つの森の物語」
2003年から、森ビルの特別顧問に就任しました。三井物産副社長をしていた1990年代から、社長だった森稔さんと知己を得ていたことから、私の三井化学会長の退任が決まると、早速お声をかけていただきました。
森さんとはビジネス上のお付き合いが多少あり、三井化学に転籍する際も、お声をかけていただいたことがありました。そのときは三井化学に行くことが決まっておりましたので、ご辞退させていただきましたが、一度ならずも二度も、お目をかけていただいたことに感激いたしました。
◆新たな感動を選択
実は、三井物産の業務部長の時代は、「借金で不動産事業をやるんじゃない」として償却をどんどん進めてきた男が、森ビルにお世話になるなんて魂の基軸はどこにあるんだ、と自分の良心に厳しく問いただしましたし、友人ら周囲からも「なぜ、どうして」と質問を受けたものです。
その問いかけに当時、「3つの森の物語」として、こんなことを話していました。
1つは、ノーベル賞受賞者の江崎玲於奈氏が、同じくノーベル賞受賞者の野依良治氏、小柴昌俊氏とテレビ対談をしているなかで、こう言われたことに感動したのです。
「新しい森に入れ、森にはたくさんのリスクがあるが、限りないオポチュニティー(好機)があり、感動がある」
この江崎氏が言う森のキーワードに、これは神の啓示ではないかと受け止めたのです。このとき、70の手習いでしたが、江崎氏の言葉に背中を押されるように森に入り、好機と感動を求めることにしたのです。
2つ目は、尺八制管師、永井栖鳳(せいほう)先生から、仏教の教えとして人間は4つの成長過程を経て人生を成就するとして、「15歳までは養育期、60歳までは学習期、60~75歳が森住期、75歳以上が出離期」と聞いたことです。その森住期の意味するところは、「森を見、森の音を聞きながら森の深さを読むように、人生の奥行きを模索しながら自然体で生きよ」ということでした。まさに、私は森に住む期にいたので、この予期せぬタイミングでの出会いに感謝して、森ビルのなかで生きてみようと思わせてくれたのです。
◆全体を絶えず考える
3つ目は、たまたまそのころ、矢崎総業の知人から、同社の02年のキャッチフレーズを「森」にしたと聞いたことがありました。同社会長の矢崎裕彦氏が、中国重慶の日系自動車メーカーを訪問したとき、その工場長が伝達したいメッセージを壁新聞で掲示するのに、端的に全体感を示す言葉として「森」を選んだと聞き、矢崎総業もそれをキャッチフレーズにしたとのことでした。森は、その工場長が選んだように、お互いに助け合って生きていくチームワークの必要性を暗示しているとのことでした。
偶然ですが、この「3つの森」の物語に接する機会があって、森ビルとのご縁ができたのではないかとひそかに感謝しております。
木を見て森を見ず、といわれますが、現在では木(ミクロ)も森(マクロ)も見る、全体最適を絶えず考えることが大切であると、自らに言い聞かせております。(聞き手 廣瀬千秋)
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