こんな場所でお客は来るの? 悲願だった新ホテルは奈良の観光を変えるか
国内有数の世界遺産を抱えながら、ホテルや旅館の客室数が全国最下位の奈良県に、8年越しの“悲願”がかなった。日本初進出となる外資系高級ホテル「JWマリオットホテル奈良」が平成32(2020)年春、奈良市内に開業することが決まったのだ。だが、建設予定地は奈良公園など主要観光エリアから離れており、周辺は市役所やオフィスビルという環境。「こんな場所にホテルを建てても泊まりにくるのか」と不安視する声もある。果たして新ホテルは古都観光を変えるのか。
奈良観光の“起爆剤”に…
ホテルブランド名披露の記者会見は3月3日、東京都内のホテルで行われ、開発事業者の不動産大手「森トラスト」(東京)の森章社長と奈良県の荒井正吾知事、マリオット・インターナショナルの担当者らが出席した。
奈良県の高級ホテル誘致計画は8年前、リーマン・ショックのあおりでいったん頓挫した苦い経験がある。それだけに荒井知事は喜びをあらわにし、「一流ホテルに来てもらい大変感激している。『国際観光都市・奈良』のブランド価値も上がり、県民の誇りにつながる」と胸を張った。
森社長も「奈良はシルクロードの終着駅でもあり、京都とはまた違った魅力がある。世界的な観光地として発展していく拠点となることを期待している」と力を込め、ホテルが奈良観光の“起爆剤”となることを願った。
建設されれば「5つ星級に」
「JWマリオットホテル」は世界でも最大のホテルチェーン、米マリオット・インターナショナルが展開する最高級ホテルブランドだ。現在世界25カ国に75施設があり、アジアの大都市だけでなく、地方都市にも多く進出しているが、日本には未進出だった。
建設場所は、奈良市の平城宮跡に近い県有地の一角。森トラスト側が敷地約4千平方メートルを4億8千万円で購入し、29~31年度にかけて完成させる予定だ。
ホテルは地上6~7階建てで、延べ床面積約1万5千平方メートル。国賓級が宿泊する部屋やスイートなどを含め全150室あり、レストランやバー、プールなども設ける。
外観は古都の街並みに調和するよう、神社仏閣のデザインをモチーフに奈良らしさを表現するという。森トラストの担当者は「新ホテルは格付けで5つ星と認定されるだろう」と予想する。
ホテル関係者によると、海外では「旅行の際はマリオットに泊まる」という同ホテルのファンも多い。マリオット・インターナショナルのグループ会員は世界に約5500万人いるとされ、最高級ブランド「JW」の日本での拠点が奈良になった意義は「かなり大きい」と県幹部らは期待する。
荒井知事も「奈良の世界屈指の文化財をゆっくりとハイクラスな人に堪能してもらうのはうれしい。(JWと)相性のよい観光地を造成していきたい」と意欲を燃やしている。
世界遺産あっても…厳しい現状
奈良県が観光の目玉とするべく外資系高級ホテル誘致にこだわってきた背景には、観光面で京都や大阪に大きく水を開けられている厳しい現状がある。
年間約3500万人の観光客が訪れ、世界遺産の数は全国1位、国宝や重要文化財の数は全国3位-と、国内有数の観光地である奈良。だが、実は宿泊施設の客室数は9205室で、全国ワースト1位(26年)。延べ宿泊客数も約262万人で徳島県に次ぐ全国ワースト2位(27年)だ。観光庁によると、同年の奈良の外国人宿泊者数は約28万人で、京都の約480万人の1割にも満たない。
日帰りで観光を終え、大阪や京都に泊まりに行く-。奈良ではこうした「日帰り観光」が定番となっており、土日の昼間には観光客でごったがえす近鉄奈良駅前も、夜になれば閑散。駅周辺で深夜まで営業している飲食店の数も、大阪や京都には遠く及ばないのが実情だ。
それだけに、地元の観光業界からは期待と歓迎の声が聞かれる。県内のホテルや旅館172施設が加盟している県旅館・ホテル生活衛生同業組合の吉川義博専務理事は、「県内での競争は激しくなるが、ともに誘客活動をして奈良全体の魅力発信につなげたい」と期待感を示す。
まだ見えない“全貌”
果たして、新ホテルは奈良の観光を変えるのか。
ポイントとなるのは、ホテル周辺のにぎわいづくりといえる。ホテル建設予定地は東大寺や奈良公園から約3キロ離れ、奈良市役所や企業のビル、住宅地に囲まれた場所だ。
平城宮跡からは割と近いが、天然記念物で、外国人観光客にも大人気の「奈良のシカ」がうろうろしているところではない。「本当にここに高級ホテルを建てるのか」「奈良公園に近い県庁がある場所に建設したほうがよいのでは」「客の入りが悪ければ、外資系はさっさと撤退してしまうのでは」…。そんな不安視する声も、県が誘致を表明した当初からよく聞かれた。
これに対し、森トラストの担当者は「ホテルが建設されることで、周囲も再開発されて変わっていく。われわれはこれまでにもそうした変化を経験してきた。現時点での姿ではなく、街のポテンシャル(可能性)を考えたい」とする。
県も、奈良に点在する観光エリアを周遊する拠点となるよう、約220億円の事業費をかけてホテル周辺に商業モールや2千人規模のコンベンション施設、イベント広場などの「にぎわい施設」を整備する構想を立てている。だが、施設を運営する事業者はまだ決まっておらず、具体的にどういった全容になるかは見えていない。
関西、ホテル進出ラッシュ
関西では現在、東京五輪を見据えて増加する外国人観光客を取り込もうと、外資系ホテルをはじめ宿泊施設の新設ラッシュが続いている。しかし、急増する外国人観光客の増加に宿泊の「受け皿」が追いついていないのも現状だ。
みずほ総合研究所は27年の調査で、訪日外国人が2020(平成32)年に2500万人まで増えた場合、26年の客室数のままでは近畿地方で約2万3千室が不足すると予測した。同研究所は「現状は中国をはじめ、アジアからの訪日外国人が全体の8割を占めているが、欧米からの観光客拡大も今度は重要な戦略になる」と指摘する。
こうした現状を見据えた奈良のホテル誘致。周辺のまちづくりと合わせて、先行きには不透明な部分もあるが、新ホテルが低迷する古都の宿泊観光を変える起爆剤となるか、注目される。(有川真理)
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