遊技産業の視点 Weekly View

 □木村和史 シークエンス取締役・LOGOSインテリジェンスフェロー

 ■日本のカジノは“ハレ”の場になれるのか

 昨年のサイクロン被害が記憶に新しいバヌアツ共和国はオーストラリアの東、ニュージーランドの北に位置し、南西には“天国にいちばん近い島”といわれる仏領ニューカレドニアがある。国の人口は約20万人で、首都・ポートビラへはオーストラリアのシドニーから飛行機で約4時間の距離にある。

 なお、バヌアツは1980年7月、イギリスとフランスから独立した。しかしながら、35年が経過した現在もオーストラリア、ニュージーランド、イギリス、フランス、中国などの影響圏内にある。

 バヌアツは一応、観光立国であるが、マカオのように国民の多くがサービス産業に従事しているわけではなく、ほとんどは自給自足の生活を送っている。極論すれば、市場経済は機能していない。つまりトラックシステム的な物々交換だ。こうなると貨幣というものの価値が希薄になり、国内に銀行は存在するが、口座を持っているのは外国資本ばかりで国民の多くは口座すら持っていない。

 そんな、ある意味、未開のバヌアツにもカジノはある。70年代にカジノが解禁されたオーストラリアの影響を受け、ポートビラにもグランドホテルのカジノ、ホリデーインのカジノ、21カジノなど5カ所ほど存在する。資本はオーストラリアが中心だ。

 客の国籍はオーストラリア、ニュージーランド、ニューカレドニア在住のフランス人が多く、自国民にも開放されているもののバヌアツ人の入場は少ないようだ。また、ジャンケット業者を介してVIP顧客の開拓に注力しているカジノもあり、香港、マカオのゲストまでターゲットにしていると聞く。

 自国民に開放されているが自国民は足を運ばないのがバヌアツのカジノだ。近代国家というものが、ある意味、貨幣に対する欲望を表出するものであるならば、バヌアツ国民の行動は未開のそれだ。つまり、バヌアツ国民にとって外国資本のカジノ場というものは、違和感を与えこそすれ、決して“ハレ”の場ではないということだ。さて、日本はどうだろうか。

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【プロフィル】木村和史

 きむら・かずし 1970年生まれ。同志社大学経済学部卒。大手シンクタンク勤務時代に遊技業界の調査やコンサルティング、書籍編集に携わる。現在は独立し、雑誌「シークエンス」の取締役を務める傍ら、アジア情勢のリポート執筆なども手掛ける。