鞄工房山本 こだわりの手作業でランドセル作り

奈良発 輝く

 子供のころに誰もが買ってもらったランドセル。昔は黒と赤の2色しかなかったが、今はたくさんの色や材質、デザインから選べるようになっており、メーカー間の競争は激化している。そんな中、奈良県橿原市の「鞄工房山本」では、50年前から変わらない手作業による丁寧なランドセル作りで人気を博している。

 ◆転機は自社販売

 1949年、先代の山本庄助さんが戦地から戻った兄とともに大阪でかばん製造業を立ち上げたのが、鞄工房山本の始まり。当時、革は配給制で、材料の仕入れすらままならなかったため数年後、比較的材料を入手しやすい奈良県に会社を移転した。その後、独学で一から技術を習得、67年に兄と離れてランドセル専業として独立した。

 先代のときは自社販売はしておらず、全て問屋に卸していた。子供の数が多かったため、「作れば作っただけ売れる状態だった」という。だが徐々に子供の数が減り、60年代に登場した安価な人工皮革を使ったランドセルが普及し始めたこともあって、売り上げは減少。山本一彦社長は「入社した78年ごろは関西で約40社がランドセルを作っていたが、今では6社ほど。厳しい状況だった」と振り返る。

 そこで社長を引き継いだ翌年の2000年に始めたのが自社販売。まだインターネットもあまり普及しておらず、ダイレクトメールを送って宣伝を試みたが、1年目は260個、2年目は320個と売り上げは不調だった。そこで、「どこにも負けないカタログを作ろう」(山本社長)と、自社のランドセルの特徴やこだわりを丁寧に解説したカタログを作成。効果はてきめんで、3年目は730個、4年目は1070個と売り上げは大幅に増加した。

 11年に一度売り上げが落ちた以外は、毎年売り上げ3割増という驚異的な成長を続け、15年度は1万4000個を販売。注文開始から1カ月で生産予定数が売り切れるほどの人気ぶりで、3年後には2万個を目指している。

 ◆丁寧さが躍進の秘訣

 成長の原動力となったのは、先代から変わらない手作業による丁寧なランドセル作り。「職人たるもの、どんな時代でも良いものをつくらなくてはならない」という先代の言葉を守り、材料は全て国産品を使用、高級紳士かばんと同じという技法で、一つずつ仕上げていく。

 6年間安心して使えるよう、各パーツにつなぎ目のない1枚革を使用。角の部分は革がたるんでしまわないよう、放射状に均一にしわを寄せていく「キザミ」と呼ばれる技法を用い、革の裁断面はニス塗りと磨きを繰り返す「コバ塗り」で美しく仕上げている。子供用でも一切手を抜かない堅実なものづくりが、たくさんの人に選ばれる一番の要因となっている。

 一方、新しいものを取り入れ、効率化を図ることも欠かさない。「昔ながらのものづくりを守るべき部分と、効率化すべき部分は別」と、日本に1台という裁断機を2500万円かけて導入し、革の裁断を一部自動化。これまで8時間かかっていた100セットの裁断を5時間に短縮した。

 また、注文数の増加に対応しようと、今年度から人工皮革の製品もラインアップに追加。9月からは、財布や名刺入れなどの革製小物の販売も予定している。

 「どれだけ売り上げが増えても、子供にとっては世界に一つだけのランドセル」と語る山本社長。ものづくりにかける情熱こそ、躍進の秘訣(ひけつ)なのだろう。(桑島浩任)

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【会社概要】鞄工房山本

 ▽本社=奈良県橿原市南浦町899((電)0744・20・1771)

 ▽創業=1949年

 ▽資本金=1000万円

 ▽従業員=43人

 ▽売上高=9億7000万円(2015年度)

 ▽事業内容=ランドセルの製造・販売

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 ≪インタビュー≫

 □山本一彦社長

 ■モノを大事にする気持ち育んで

 --ランドセルを作る上で大切にしていることは

 「教科書を入れるただの道具ではなく、6年間を見守る大事なパートナーという考えで、各工程を丁寧に一つずつ手作りしている。鞄工房山本のランドセルを使うことで、モノを大事にする気持ちを育んでほしいと思っている」

 --特にこだわりをもっている部分は

 「大きな1枚の革から各パーツを裁断するための『型入れ』に、一番気合を入れている。革は牛の背中側の繊維は緻密(ちみつ)で強く、おなか側の繊維は荒くて柔らかいという特徴があるので、それに合った型入れをしないといけない。よく見なければわからない虫食いや傷もある。生き物からの恩恵を無駄にしないためにも、何時間もかけて入念にチェックをしている」

 --手作りのランドセル作りの工程はどのようなものか

 「型入れの後は『裁断・スキ』『カブセ』『前ポケット』『オオマチ』『背中・肩ベルト』などの工程に分かれて、それぞれが作業する。ミシンなどの機械は使うが、ほとんどの工程が手作業なので、1日の生産量はだいたい60個程度。最初に型入れをしてから完成まで、2週間ほどかかる。去年の7月に注文をいただいて、生産が終わるのは今年の3月なので、最大で半年以上待ってもらうことになる」

 --今後の展開は

 「3年後に販売数2万個を目指し、新製品追加や新卒採用を行っている。2007年から採用を始めて現在、工房は30人が働いているが、型入れができるのは私1人だけ。今期から2人くらいに型入れを教えていって、私が関わらなくてもランドセルを完成させられるようにしたい。製品をじかに見られるショールームが、本社がある奈良のほかには東京にしかないので、関西にも作っていきたいと考えている」

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【プロフィル】山本一彦

 やまもと・かずひこ 大阪体育大卒。1978年に入社し、99年に社長就任。翌年から自社販売を開始し、15年間でランドセル販売個数は3倍以上に。現在も職人として現場に立つ。60歳。奈良県出身。

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 ≪イチ押し!≫

 ■女の子向けに花モチーフあしらう

 女の子向けの牛革ランドセルの中で、一番人気のシリーズ「グレースシルバー・ラフィーネ」。正面にティアラのステッチとスワロフスキーの飾りが施され、側面には花のモチーフがあしらわれている。前ベルト部分など、各所のカシメにも花型やクローバーのカシメが付けられている。一方、丁寧に処理された本革を使い、古くから伝わる「コバ塗り」などの技法を駆使した作りは、高級紳士かばんと遜色ない落ち着いた風合いを醸し出している。

 色は「黒」「赤」「ローズピンク」「ワイン」「茶」の5色。落ち着いた茶系に少しピンクを加えたワインが一番人気だ。5月16日からカタログ請求を受け付け、6月20日からウェブと店頭で販売開始。価格は送料、税込み6万9000円。