イノベーションの街に変貌 森ビル・アークヒルズ30周年、新たなコンセプト
森ビルが主導して開発を進めたアークヒルズ(東京都港区)が、今年3月で開業30周年を迎えた。米ゴールドマン・サックスなどが拠点を置いていたため一時期は金融センターとして名をはせたほか、サントリーホールによる文化の発信基地としても定着。周辺地域も巻き込んで発展する大規模開発モデルは、その後の六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズにも受け継がれた。その“ヒルズ”の原点が節目を迎えたのを機に、新たなコンセプトの街づくりに乗り出した。キーワードは「イノベーション」だ。
◆工作機器ずらり
金属や樹脂を加工するCNC(コンピューター数値制御)マシニング、溶接機、3Dプリンター…。かつては内装材関連メーカーのショールームだった約1200平方メートルのスペースには、ものづくりに不可欠な50種類以上にも上る最先端の工作機器が並ぶ。アークヒルズの一角に1日に開業した「テックショップ東京」だ。
テックショップは、“メーカー”になることを目指す個人やベンチャーが、多額の投資をしなくても試作品などを作ることを可能にした米国発の会員制のDIY工房。あえて仕切りのない空間を設定することで、会員同士が声を掛け合いやすい雰囲気を醸成し、コラボレーションによる新たな製品やサービスの誕生を促す。
日本で運営するテックショップジャパンは米テックショップの協力を得て富士通の全額出資により昨年設立。国内1号店は、中小企業が多い大田区や電子機器の専門店が集積する秋葉原なども候補に挙がった。しかし、「文化度が高くセンスが優れた人が集まり、ベンチャーキャピタル(VC)も周辺に存在する。何かいいアイデアが生まれたらビジネスになるチャンスが大きい」(富士通グローバルビジネス推進部の関和彦氏)という理由でアークヒルズへの進出が決まった。
大規模で高機能なオフィスと国際水準の高級賃貸マンションを組み合わせた職住近接のライフスタイルの先駆けとなったアークヒルズ。周辺にもオフィス、住宅の集積を誘発する都市開発のお手本となっている。
ただ、テナントの顔ぶれは大きく変わりつつある。ここ数年で目立つのが、IT系企業の進出。それらが磁力となってVCも周辺に続々と集結してきた。森ビルの松本栄二・タウンマネジメント事業部部長は、そうした動きについて「クリエーションの拠点として新たな刺激を受けている」と期待する。さらに発展させるために招致したのが、テックショップ東京だ。
◆人材交流の場
起業やイノベーションを単なる一過性のものにしないため、アークヒルズにはテックショップ以外にも、2つの施設を開設した。その一つが「カレイドワークス」。独立系のVCが入居するオフィスエリアと、交流の場となるラウンジエリアによって構成され、新たな人材やアイデアを生み出していく。また、「ワイヤード・ラボ」はビジネスパーソン向けのスクールやセミナーの場とする。
3つの施設の開設を記念し、未来を体感できるイベント「Sound and City」も28、29日に開催。松本部長は「こうした企画を継続的に実施することで、それぞれの施設の魅力をアピールし街の価値向上につなげたい」と意欲を示す。ベンチャーとの交流機能の強化を進める虎ノ門ヒルズとの連携も検討する。
森ビルに限らず大手不動産による都心の再開発ではベンチャーを取り込もうとする動きが活発だ。有力ベンチャーが集う渋谷では、東京急行電鉄が2027年度の完成に向け大規模開発を進めている。
呼び込んだベンチャー企業が成長すれば、重要な収益基盤となる。アークヒルズがイノベーションを前面に出した戦略に乗り出したことで、ベンチャーをめぐり、不動産大手各社やエリア間の綱引きが一段と激しさを増しそうだ。(伊藤俊祐)
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