世界のショーウインドーで価値発信
クールジャパンの匠たち□エニス代表取締役社長・塩川嘉章
ルーブル美術館とは指呼の間、つかの間の散策でオペラ座にもたどり着くパリの中心部に、優れた日本の地域産品を紹介する2つのコンセプトショップを構え、4年ほどで50回以上のショーケースを行い、世界のどこにもない価値を発信する。長い歴史に息づく文化や、高度な技術の向こうにある作り手の心を織り込んで展示のテーマを掲げ、秘められた伝統をストーリーに語って、有田の陶磁器、清水焼、奈良の麻、越前刃物、鯖江の眼鏡、輪島の漆器、岐阜の和紙、山梨のニット、大宮の盆栽など、日本各地に広がるよりすぐりの、そこにしかない魅力を丹念に伝えてきた。
「手作りの感覚があるもの、丹精を込めて作り上げられたものが望まれています。それはフランスをはじめヨーロッパでは失われつつあるものです。デザイン性の高いものはヨーロッパにもありますが、アンティークとして残っているばかりです。これほど多くのものが日常の中に寄り添うものとして息づき、それを今でも作ることができるのは日本だけです」
20年以上の在仏歴を持つ。フランス人は元来、日本や日本の文化を愛し、浮世絵は幾度もブームが起こり、小津安二郎、黒澤明をはじめとする日本映画はいつもパリのどこかで上映されていることを目にしてきた。「フランスは文化的な高さを誇りとし、洗練された日本の文化を深く理解することができ、日本のものづくりの姿勢に高い評価を与えています。教養が高く、社会的地位がより優れているフランス人ほど、日本に対する理解とあこがれを強くし、自らの文化以上の水準にあるとの思いも抱いているようです」と語る。
フランスは6600万余りの人口に対し、外国からの旅行者数は8500万に迫る世界一の観光大国。中世から美術、音楽はもとより、料理、服飾なども含めヨーロッパ随一を自任する文化、芸術の国で、パリは世界の都として輝き続けている。パリの一等地は、そのまま世界の一等地であり、そこに店を構えることは、全世界に向けたショーウインドーを持つことを意味する。
「『ディスカバー・ジャパン』を2011年に開設し、さらに大きなスペースが必要になり、昨夏に『メゾン・ワ』をオープンさせました。いずれも小売店でありながらギャラリーのような場所で、ここに来れば日本の優れたものを間近にし、手にすることができると訪れてくれます。来日経験があり、日本のおもてなしに心を動かされた人も多く、ものづくりに注ぐ思いが一つ一つつながり、広がっていくようです。カタログではなく、実物に触れて日本を体験してほしい。日本人のスタッフが目の前のものに込められている思いを丁寧に説明し、日本の良いものを継続して紹介しながら、求められている価値を発見し、発信し続ける場でありたいと願っています」
日本で生まれた漫画はフランスでも広く愛されている。フランス語圏の漫画、バンド・デシネは世界に広まり、日本の漫画にも大きな影響を与えた。フランス人の多くは漫画を世界に理解される普遍的な価値に高めたと捉えているとし、フランス人は見いだした価値をさらに大きなものとして伝えることに長じていると指摘する。
「フランス人は心を引かれ、自らのものとして取り込むと、洗練された形で発信し、新しい価値を付加していきます。シンプルで明快であることを重んじる彼らは物事の本質を的確に捉えます。明晰(めいせき)な人ほど日本を理解し、好きになり、日本的な感覚、感性を美しいものとして受け止め、心を引かれています」
日本人は一つの工程を経ることで得られる経済的な価値を追うことよりも、徹底して仕事を完遂することに意義を見いだし、良心の充足を得ることにも大きな意義があるという。
「周囲のために心を配るなど日常の小さな事柄も含め、フランス人は日本独特の心の動きに魅了されています。日本的な世界観、価値観が、彼らの世界観、価値観に大きな示唆を与えるものとなり得ます。日本のものづくりを丹念に伝え、彼らが求めるものを見いだしながら、日本のものづくりにも力を与えるものになればと願っています」(谷口康雄)
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【プロフィル】塩川嘉章
しおかわ・よしあき 1970年、川崎市生まれ。大学生時代からパリへ留学し、95年に再渡仏。98年から現地の日系企業に勤め、2005年には社長に就任した。11年に独立し、日本の製品をヨーロッパ全土に紹介、販売する現地法人を創設。パリ中心部にコンセプトショップ「ディスカバー・ジャパン」「メゾン・ワ」を開設し、日本の地域産品をものづくりの精神とともに発信している。昨年11月、クールジャパン機構(株式会社海外需要開拓支援機構)が約1億円の出資を決定し、ヨーロッパでビジネスを確立する日本の地域産品事業者を5年間で200社創出することを目指す。
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