1個からPOP コストもCO2も削減

eco最前線を聞く
「じゃがりこ」のPOPの横に立つ加藤孝一氏。立体器具は大量発注が常識だったが、1台からでも受注できるようにした

 □カルビー カルネコ事業部長・加藤孝一さん

 カルビーは、食品や化粧品メーカーが進める地球温暖化対策の支援態勢を強化する。具体的には、顧客が店頭での販売促進時に使用するPOPを活用。段ボール製陳列用器具の制作を1個単位から受注できるようにしたことで、すべてのPOPをカーボン・オフセットの対象とした。この事業を推進するのは、販促物の制作と調達を担うカルネコ事業部。加藤孝一事業部長は「環境負荷が少ない企業にどれだけ投資していけるかが、世界的な潮流となっている。潜在需要は大きい」と自信を示す。

 --カルネコ事業部の目的は

 「店頭での販促に必要なPOPを、顧客が実需に沿った形で調達できるようにして無駄な大量発注によって増える販促費を削減することだ。もともとは自社製品の安売り対策を進めるために発足したが、そのノウハウを外部に提供、受注実績も増やしている」

 --このシステムを活用した地球温暖化対策とは

 「これまでPOP用の器具やポスターを届ける段ボール製外装材を製造するときに排出する二酸化炭素(CO2)を、森林支援を通じて購入したJ-VER(オフセット・クレジット)で相殺していた。外装材だけで年間214トンのオフセット実績を残している」

 --4月から新しいシステムを導入した

 「販売する器具やポスターなどすべての製品で、オフセットが可能になった。これにより年間実績は約1400トンへと大幅に増える見通しだ。オフセットされたCO2は、販促物を購入した企業に付加。J-VERの付いた商品購入を通じて森林支援や環境貢献につながる取り組みを行っていることを、CSR(企業の社会的責任)報告書に記載することができる」

 --新システムを構築した経緯は

 「商品を陳列する段ボール製の立体器具は生産工程が複雑なため、多大なコストを要する。例えば大量発注の場合、1台当たりの購入金額は数千円で済んでも、追加発注を含め少量の発注であれば数万円に跳ね上がるケースもある。使い切る自信がないのにコスト対策の一環として発注した場合、保管料の支払いに加え、最終的に焼却処分してCO2を排出する可能性が大きい。結果として地球環境への負担は大きくなってしまう」

 --こうしたサイクルから脱却するために仕掛けたことは

 「埼玉県飯能市に新たな拠点を開設。カッティングマシンとインクジェットプリンターを組み合わせた設備を導入することで、不可能といわれていた立体器具1個からの制作も請け負う態勢を整えた。顧客は在庫を減らせるため店頭ツール関連の大幅なコスト削減を実現できる。また大量の器具が残っていると競合メーカーの新たな一手に対応しにくいが、機敏に対策を講じることができる」

 --昨年の「気候変動枠組み条約第21回締約国会議」(COP21)で、日本は2030年までに温室効果ガス排出量の26%削減(13年比)を公約した

 「高いハードルだと認識している。CO2対策を強化するには、エネルギーを要するリサイクルに力を入れるだけではなく『作らない』という考え方に沿った行動も必要。その意味で、店頭営業でのCO2対策を支援する今回の新たな取り組みは意義がある。CO2の排出量が少ない企業が評価され、株価まで影響するという潮流は世界的に強まるはず。環境経営の必要性といった観点からも、新システムの普及に力をいれたい」(伊藤俊祐)

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【プロフィル】加藤孝一

 かとう・こういち 1981年カルビー入社。マーケティング企画室マネジャーなどを経て2005年から現職。57歳。愛知県出身。

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【用語解説】カーボン・オフセット

 二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出について削減努力を行い、それでも減らすことができない量を、他の場所で実施された削減・吸収活動から創出されたクレジット(排出権)で相殺すること。

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【用語解説】J-VER(オフセット・クレジット)

 温室効果ガスの排出削減・吸収プロジェクトから創出された削減・吸収量を経済的な価値に換算したもの。国内の活動を通じクレジットを創出する仕組みを「J-クレジット制度」という。