日本に必要な5つの改革 将来ビジョン示し合意形成を

論風

 □地球産業文化研究所顧問・福川伸次

 1970年代から80年代にかけて日本は素晴らしい成長を遂げ、一時は世界経済でトップクラスの地位を占めたが、90年代以降、バブル経済の崩壊を契機にその経済的地位は急速に低下した。

 安倍晋三内閣は、これに対して「1億総活躍社会」を提案しているが、日本の市場が人口減少などによって縮小するとなれば、成長力を維持するにはグローバリズムを基軸にイノベーションに挑戦する以外に解決策はない。

 1911年に「創造的破壊」を提唱したシュンペーター教授は、イノベーションを「経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでと異なる仕方で新結合すること」と定義し、技術、制度、経営、管理、政策など社会全体のシステムの改革を通じて新しい価値を生む広範な理念として捉えている。まさに今日の日本が必要とする多角的な改革なのである。

 ◆デジタル革命の勝者に

 その第1は、経済システムのイノベーションである。現に日本も、世界も、その成長力が停滞している。経済政策に責任をもつ政治が効率性、合理性を追求するよりもポピュリズムに走ることから、規制改革が遅れ、財政支出が放漫に拡大し、金融緩和によって世界市場に過剰流動性が供給されてしまっている。日本では先進国の中で最悪の財政構造であるにもかかわらず、財政も、社会保障制度も、その改革が遅れている。

 第2は、技術開発のイノベーションである。最近、日本でもIoT(モノのインターネット)、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、人工知能(AI)、インダストリ4.0といった言葉が飛びかっている。日本でも自動車やロボットなど優位性を持つ分野もあるが、パソコン、半導体など世界で優位に立っていた電子機器産業の多くが中国、韓国、台湾などに追い越されている。もはや日本はデジタル革命の敗者になることは許されない。

 技術フロンティアは広い。デジタル革命分野のほか、新エネルギー、次世代自動車、再生医療、介護ロボット、バイオニクスなど日本が先頭に立てるものが多いが、問題はいかにこれを実現するかである。産学連携と異分野の技術融合の必要性が言われ始めて30年以上がたつが、遅々として進まない。

 第3は、企業経営のイノベーションである。日本の企業経営を見ると、最近徐々に国境を越えた提携合併がみられるようになったが、欧米に比べると、まだまだその戦略性は低い。コーポレート・ガバナンス改革が提案されているが、その成果は道半ばである。とりわけサービス産業の生産性は低い。デジタル革命についていけるか、経営者の真価が問われている。

 ◆グローバリズムは不可欠

 第4は、社会生活のイノベーションである。人口が減少する日本が経済の量的拡大よりも社会の質的向上を目指すとすれば、人類が希求する健康、美、文化、倫理、秩序、創造など人間の価値の高揚に重点を置かなければならない。とりわけ、伝統的文化の保存、新しい文化の創造など文化的基盤の充実を図るとともに、イノベーションを起こす源泉となる教育に関し、学際教育の強化、創造力の養成、コミュニケーション力の向上、海外留学の促進などを進める必要がある。

 第5は、国際システムのイノベーションである。最近、政治、経済、社会の各面でリスクが高まり、グローバル・ガバナンスが揺らいでいる。市場、資源、食糧などを海外に依存し、集団安全保障体制に頼る日本としては、グローバリズムの定着が不可欠である。

 相互信頼、集団安全保障、自由貿易、法の支配、人間価値の尊重など国際社会の諸原則を確認し、グローバリズムの将来ビジョンを世界に発信し、合意形成に努めなければならない。

 以上、日本が挑戦すべきイノベーションの方向性を指摘した。議論の高まりを期待したい。

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【プロフィル】福川伸次

 ふくかわ・しんじ 東大法卒、1955年通商産業省(現経済産業省)入省。86年通産事務次官。88年退官後、神戸製鋼所副社長、副会長、電通総研社長兼研究所長を経て、2005年から機械産業記念事業財団会長、12年4月から現職。84歳。東京都出身。