パナソニック悲願の目標「10兆円」お預け 中国に足元すくわれ…道のり険しく
パナソニックが創業100周年の節目となる平成30年度に、連結売上高を10兆円とする目標を撤回した。巨額赤字からのV字回復を経て反転攻勢の構えをみせたものの、中国経済の減速など想定以上の環境悪化に見舞われたことで、足元の業績を下方修正すると同時に大台への挑戦も断念した格好だ。むやみに売り上げを追わず、利益を重視する方針に転換するが、成長の牽引(けんいん)役となるBtoB(企業間取引)事業での新たな収益の柱の創出や市場の変化への対応力に課題が残る。ポスト10兆円も道のりは険しい。(橋本亮)
「悲願」達成ならず
「10兆円は全事業で成長を加速させるための明確な目標だったが、27年度の業績予想を下方修正したことで、(目標達成への)発射台が下がった」
3月31日、都内で行われた28年度の事業方針説明会で、津賀一宏社長は、こう説明した。
10兆円の売上高目標はこれまで2度にわたって掲げては未達に終った「悲願」でもある。1度目は、デジタル家電を成長エンジンに据えた中期経営計画「GP3」(19~21年度)で、20年のリーマン・ショック後の世界的な景気減速が直撃して断念した。
2度目は、三洋電機の完全子会社化による環境革新企業へのシフトを盛り込んだ中計「GT12」(22~24年度)だったが、連結売上高は伸びず、プラズマテレビへの過剰投資などがたたって23、24年度の2年連続で連結最終損益が7千億円超の巨額赤字に陥るったことで立ち消えになった。
24年6月に就任した津賀社長は、すぐに不採算事業のリストラに着手して25年度に黒字転換した。その勢いを駆って26年3月に宣言したのが三度目となる10兆円への挑戦だ。「全事業、全従業員で成長を考えようという強いメッセージが必要」と考えたためで、創業100年目の大台達成を狙った。
家電など消費者向け事業を縮小し、安定した収益が見込めるBtoB事業を軸足にシフト。1兆円をM&A(企業の合併・買収)などを含む戦略投資に充てる計画を掲げ、売り上げ増による増益に舵を切った。
順風満帆に進んでいくかにみえたが、27年度に入ると中国の景気減速の影響が顕在化し、エアコンやノートパソコン向け電池の販売が予想以上に落ち込んだ。
追い風となっていた円安効果も薄れるなど、10兆円目標の前提としていた条件が変わるなか、津賀社長は「必ずしも売り上げを追うことが適切でない」と判断した。「増収による増益の構図を作れておらず、環境対応力も不十分だった」と認めざるを得なくなった。
成長維持への“芽”
目標撤回の表明翌日の4月1日には、投資家の不安をかき立て株価が一時、前日終値比で10%以上急落する場面もあったが、津賀社長は「想定の範囲内だ」と冷静に受け止めた。
売り上げが伸び悩む状況下でも、27年度にはテレビ事業が8年ぶりに黒字に転じる見通しとなるなど、これまでの構造改革を通じて経営体質は着実に強化されている。津賀社長が10兆円の目標こそ撤回したが、「成長戦略は引き続き推進する」と強調したのもその自信の表れともとれる。
津賀社長が10兆円の売上高目標に代わって打ち出したのが、30年度の「営業利益5千億円以上(26年度実績=3819億円)、最終利益2500億円(同1794億円)以上」という新たな経営目標だ。連結売上高は目標とせずに8兆8千億円程度と想定した。
実現に向けて家電事業では中国やアジアでプレミアム商品の展開を加速するとともに、新興国の中でも最重要市場に位置づけるインド事業の強化を図る。
インドでは28年度から、これまで現地メーカーに生産委託していた冷蔵庫の一部を自社製に切り替えた上で、29年度以降に工場を新設する。中国や東南アジアなどに加え、インドで生産した製品をアフリカで展開することも視野に入れる。中国事業などで得たノウハウを、次のインド・アフリカの事業戦略に生かす好循環が生み出すことができれば、持続的な成長が果たせるとみる。
“第4の柱”不在
住宅事業では成長が見込めるリフォーム分野や介護分野などに注力。成長のエンジンに据える車載事業でも次世代コックピットや自動運転、電池分野に経営資源を振り向け、競争力を高める戦略を描いている。
課題となるのが、津賀社長が「勝つためのビジネスモデルが十分に構築できていない」と指摘するBtoB事業の強化だ。
BtoB事業は安定した売り上げや利益を得られるため、市場環境の変化に対する対応力が高まる半面、取引に必要な実績をあげたり、取引先企業との関係構築などに長い時間がかかるというジレンマを抱える。
M&Aを通じて一足飛びに売り上げを増やすことも1つの手段となるが、津賀社長は「売り上げだけを意識すると、長期的な収益性の良くない事業を買ってしまう」と話す。利益を重視するなら時間がかかってでも、長期的に安定した収益が得られる事業にまで育てる方が重要との考えだ。
BtoB事業では現在、航空、食品流通、産業用ロボットの3分野が収益の柱として高い収益力を誇っているものの、「それらに続く柱がない」(津賀社長)のも事実だ。
第4の柱として物流分野などでの事業展開やM&Aによる事業獲得を検討するものの、安定した収益を稼ぐまでには時間がかかる。BtoB事業は足元の実績は非公表だが、32年度以降に営業利益率10%、営業利益3千億円という目標を課しており、時間との戦いを迫られるのは必至だ。
10兆円の看板を下ろし、利益成長という道を選んだパナソニックだが、その道程は楽観を許さない。
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