採算度外視でFCV普及に挑む! “第2のエネルギー革命”目指す岩谷産業

 
国内初の岩谷産業の水素ステーション=平成26年7月、兵庫県尼崎市

 LPガス最大手の岩谷産業が水素ビジネスで飛躍を目指している。もともと日本で水素販売の草分けで、国内市場の7割を握るトップ企業。政府が環境に優しい次世代エネルギーとして水素の普及を後押しする方針を掲げ、水素を燃料とする燃料電池車(FCV)や家庭用の燃料電池の販売が伸びつつあることを追い風に水素社会の到来に向けた投資に本格化する。目指すは、薪や炭で煮炊きしていた台所仕事の負担を劇的に軽くしたLPガスの普及に続く、水素を燃料として活用する「第2のエネルギー革命だ」と鼻息は荒い。(中山玲子)

 近づく水素社会

 「水素を活用する社会の実現に貢献したい」

 2月、JR大阪駅北側の複合商業施設「グランフロント大阪」(大阪市北区)で開かれた水素エネルギーのフォーラムで、岩谷産業の野村雅男社長は、こう力を込めた。

 このフォーラムは水素社会を実現する機運を高めるのが目的で、大阪と東京で毎年開いている。トヨタ自動車が26年12月に発売したFCV「MIRAI(ミライ)」は、注文が殺到し納車まで数年待ちの状況。ホンダも29年度以降に個人向けにFCVを発売する見通しだ。

 FCVは、燃料の水素が空気中の酸素と化学反応し電気と水を発生、電力でモーターを回転させる仕組み。排出されるのは水だけの究極のエコカーともいわれることもあって話題を呼んでいる。

 課題はFCVに燃料を供給する水素ステーションの普及で、政府は全国にある現在約80カ所から今後10年で4倍にし、平成42年までにFCVの販売台数を80万台にまで増やす計画だ。

 エネルギー効率の高い家庭用の燃料電池「エネファーム」を使ったコージェネレーション(熱電併給)も導入が進むなど社会的な認知度が高まっている。

 政府は32年開催の東京五輪までに一定の整備を進め、国内外に水素社会への転換をアピールしたい考えだ。

 採算に合わなくても

 水素社会の実現に向け、岩谷産業は積極投資を続けている。一昨年夏には兵庫県尼崎市に国内初の水素ステーションを設けた。それ以降も整備を続け、すでに約20カ所で設置している。

 今後1年で30カ所にまで増やす方針だ。水素ステーションの建設費は1カ所4~5億円とガソリンスタンドの数倍になるが、岩谷産業の担当者は「今は採算は合わなくても、先行投資で水素社会に向けた取り組みを進めていく必要がある」と説明する。

 水素は、すでに産業用としてすでにさまざまな分野で使用されている。石油精製では原油中に含まれる硫黄分を取り除く脱硫用に使われ、石油化学製品を作る際には添加剤にも使用される。製鉄所では、ステンレスなど鋼製品の表面をピカピカにする処理で水素が使用されている。半導体製造時の材料ガスには、超高純度の水素ガスが利用されているほか、宇宙ロケットは水素を燃料にしている。

 国内の水素市場は今でこそ産業用を中心に数百億円規模だが、FCVや家庭用燃料電池、水素発電などを中心に成長が見込まれており、42年には1兆円、62年には8兆円になると見込んでいる。

 なるか「水素の岩谷」

 次世代エネルギーとして注目されている水素だが、岩谷産業がビジネスにしたのは昭和16年と、何と戦前にさかのぼる。

 創業者の岩谷直治氏が工場の煙突から排出されたまま空気に消えていく水素に注目し、「有効に活用できないか」と考えたのが原点だ。石炭を蒸し焼きにしてコークスをつくる際などに排出されるガスに含まれる水素を取り出し、工場など企業に販売するビジネスを考案。石油精製や製鉄所などに向けた産業用として水素を販売。現在は天然ガスから水素を取り出すのが主な製造方法で、国内のシェアは7割を握るトップ企業だ。平成18年、圧縮した水素よりも約10倍の輸送効率がある液化水素がより低コストで量産可能になったことも水素ビジネスを拡大させた。

 岩谷産業が昭和28年、薪や炭に代わる燃料として家庭用LPガスの供給を始めた。薪や炭をかまどにくべて火をおこすため、座り込む必要がなくなり、「台所革命」と呼ばれた。このため牧野明次会長は「今度は水素社会を実現することで第2のエネルギー革命を起こしたい」と意欲をみせる。

 水素エネルギーは二酸化炭素が排出しないうえ、海水などから無尽蔵に取り出せることから資源小国の日本で期待が高まっている。

 風力など再生可能エネルギーでつくった電気で水を分解して生成する手法も開発が進み、環境に優しい次世代エネルギーとしても注目されている。

 日本の水素ビジネスの老舗の岩谷産業は「社名は産業界では知られているが、一般の人にもっと知ってほしい」(広報担当者)と話している。

 水素社会が現実のものとなれば、「水素の岩谷」としてその名が知れ渡るかもしれない。今は採算に合わなくても、そのための先行投資なのだ。