低消費社会でのパチンコ産業
遊技産業の視点 Weekly View□シークエンス取締役、LOGOSインテリジェンスフェロー・木村和史
3月末にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が運用実績の公表を当初の予定から後ろ倒しにし、参議院選挙後の7月29日にすると発表した。現政権発足後、GPIFはポートフォリオを見直し、レバレッジの高いハイリスク資産での運用比率を高めていたが、予想では5兆円程度の損失が見込まれているという。
問題は、このような失態を誰が補填(ほてん)するのかだ。つまるところ、社会保障費の増大という名目で増税路線を歩み、国民の負担が増すことになる。無論、日本人は無頓着な人間ばかりでもない。若年層サラリーマンを中心にパチンコ離れどころか、消費という行為をしなくなっている。賃金も上がらないなかで、わずかに毎月、爪に火をともすように残った可処分所得は、将来の不安のため貯蓄に回っていた。しかし、ここでも政府は、「そうはさせじ」とマイナス金利を導入し、その爪すら奪おうとしている。こんな状況で普通に結婚などできるわけがない。これが現在の日本だ。
この低消費化を背景に、パチンコを含めた小売りサービス業がとりわけ厳しいのは明白である。パチンコホール業界では300台クラスを基準に廃業や売却の話が頻出してきているが、結局は、さまざまな日本のマーケットが大手企業を中心に合従連衡、寡占化が進む中にあって、一部例外はあるにせよ中小法人数の多いパチンコホール市場も同じ道をたどることが示唆される。
ともあれ、市場の形勢がどのように変化しようと、パチンコ産業自体が低消費社会という課題を突きつけられていることに変わりはない。加えて、業界内の事情としては「のめり込み対策」の名のもと、遊技機環境もマイルド化が進行していく。どう考えても従前の延長線上でビジネスが成り立たないなか、パチンコという余暇ビジネスの在り方そのものを抜本的に見直さなければならない時期にきている。
低消費社会で持続可能な成長を遂げるパチンコ業界とは、どのようなものなのか。これからの市場を担う若中年層のリアルな生態を把握し、彼らの消費意欲をくすぐる試行錯誤に“既存の価値観”を捨てて取り掛かる必要がある。
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【プロフィル】木村和史
きむら・かずし 1970年生まれ。同志社大学経済学部卒。大手シンクタンク勤務時代に遊技業界の調査やコンサルティング、書籍編集に携わる。現在は独立し、雑誌「シークエンス」の取締役を務める傍ら、アジア情勢のレポート執筆など手掛ける。
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