なぜ進まない?部品供給網の分散化 熊本地震で問われるサプライチェーン

社説で経済を読む
石垣が崩落し、地震の傷痕が痛々しい熊本城

 □産経新聞客員論説委員・五十嵐徹

 熊本地震で、サプライチェーン(部品供給網)の分散化の遅れが改めて問題になっている。

 震源地となった熊本、大分両県をはじめとする九州中部地域には、自動車や半導体など日本の基幹産業の関連工場が密集している。今回の地震は、その心臓部を直撃した格好で、トヨタ自動車やソニーなど日本を代表する企業が、一時、部品供給を断たれ、製品づくりがストップするダメージを受けた。

 教訓生かされず

 トヨタは、国内に16ある完成車の組立工場のうち、15工場までが操業停止に追い込まれた。その後、順次操業再開にこぎつけているものの、完全復旧には、なお時間がかかりそうだという。

 ソニーはスマートフォン向けの画像センサーで世界トップのシェア(占有率)を誇る。その主力工場は熊本県内にあるが、復旧のめどは立たないままだ。余震がなかなか終息しないことも復旧の遅れにつながっている。

 部品供給網の断裂は、2007年の新潟県中越沖地震や11年の東日本大震災でも大きな問題になった。

 その都度、企業は、工場の耐震化や下請けを含めた取引の流れの把握、部品の調達先の分散化など、対策を強化してきたはずだった。それが、今回も反省を生かすことはできなかった。

 読売は4月20日付社説で「日本のものづくりは、過剰在庫を抱えない効率的な生産方式を強みとしているが、災害時には弱点となる場合もある」と問題の原点を指摘。「効率性と災害への耐久力をどう両立させるか。各企業は熊本地震を機に、サプライチェーンの再点検に取り組んでほしい」と求めたが、「なぜ回避できなかったのか」という疑問には答えていない。

 日経も4月27日付社説で「企業は工場などの耐震補強を急ぐとともに、万一に備えて代替生産手段の確保など非常時の対応を定めた『事業継続計画』の策定を進めてほしい」と述べるにとどまった。「日本で地震の恐れがない場所はない」のはその通りだが、サプライチェーンについては、各紙とも問題点の指摘以上のものは示せていない。

 なぜ過去の教訓は生かされなかったのか、企業は生産再開を急ぐのはもちろんだが、抜本的な検証をしてほしい。日本の製造業にとってはもちろん、メディアの側にも、大きな課題として残ったままだ。

 中小への影響懸念

 熊本地震により、トヨタの4~6月期の営業利益は約300億円減少するとの見方もある。世界規模の企業といえども影響は決して軽微とはいえないが、心配なのは中小企業への影響だ。

 サプライチェーンの見直しに伴って、大手企業が被災地の取引先や下請けとの関係も見直せば「二重のダメージ」を与えかねないと指摘したのは4月25日付の毎日社説だ。「住民の生活再建のためにも、地元企業との長期に安定的な関係を重視してもらいたい」と求めたのは重要なポイントだと思う。

 1台で使われる部品が2万~3万点にもなり、関係する会社は数百社にもなるという自動車産業では、とりわけ関連する中小企業の業績や、雇用への影響が懸念される。長期化すれば足踏み状態にある景気の足を引っ張りかねない。

 政府は地震後に発表した4月の月例経済報告で、「景気はこのところ弱さもみられるが、緩やかな回復基調が続いている」と述べて、下方修正した前月の判断を据え置いた。だが、日本経済に及ぼす熊本地震の影響については、全体像の把握になお苦慮しているのが実情だ。

 景気に勢いが出ないタイミングで地震の影響が拡大すると、家計や企業の心理を冷え込ませ、個人消費や設備投資にも悪影響を及ぼしかねない。昨年10~12月期にマイナス成長となった日本経済の不振に追い打ちをかけ、デフレ脱却の期待に水を差す恐れもある。

 九州の地域経済は観光業も柱の一つだが、既にツアーの中止が相次いでいる。有数の農業生産地でもある熊本や大分では、農地への被害だけでなく、交通網の寸断による出荷の停止や遅れも出ている。

 政府は、熊本地震を激甚災害に指定することを閣議決定するとともに、復旧・復興を目的とする今年度補正予算案の編成を急いでいる。6000億円規模で、今国会中の成立を図る構えだ。地場経済の不振は国内全体の消費にも影を落とす可能性がある。中小企業の支援はもちろん、観光業や農業など、迅速で、きめ細かな配慮が必要だ。