CM界よ、岡崎慎司をマークせよ

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英プレミアリーグの優勝カップを掲げる岡崎慎司=7日、英レスター(AP)

 このところ、サッカーの岡崎慎司選手(30)の話題が目立って多い。所属するレスター・シティが英プレミアリーグで初優勝、「奇跡」と評されたクラブ創設133年目の快挙の立役者の一人となったからだ。

 ◆タイ人オーナー着目

 愚直なまでに前を目指す。岡崎のプレースタイルは泥臭い。その運動量こそ「奇跡」をもたらした要因だと評価は高い。

 「久しぶりに我を失うくらいうれしくて信じられない気持ち」

 優勝が決まったとき、岡崎のくしゃくしゃの笑顔に思わず引き込まれた。事を成し遂げた顔がテレビに大映しされた。

 ふと思った。岡崎のテレビCMがあってもいいのにな、と。華やかな本田圭佑や端正な長谷部誠の映像は目にするが、岡崎のCMは少し前、長友佑都らとビールを飲んでいたシーンしか思い浮かばない。この時期だからではなく、彼のような選手がもっと注目されていい。

 調べると、タイでCM出演していた。レスターのオーナー企業、タイの免税店「KING POWER」のCMである。

 タイは古くからサッカー人気が高く、なかでもプレミアリーグの人気は群を抜く。プレミアリーグが世界での放映権ビジネスに傾注、アジアを市場として重視している影響もあろう。

 だからこそ、オーナーのヴィチャイ・スリヴァッダナプラバ氏は2010年、当時の日本円換算で62億円でレスターを買収したわけだ。そして「アジア系の選手を」と岡崎に着目、15~16年シーズン前、約12億円の移籍料を払い、独ブンデスリーガのマインツから獲得した。

 この優勝でレスターと岡崎の価値は高まる。東南アジア展開を考える日本企業にとってはうってつけの人材だと思う。

 レスター優勝を「奇跡」とクラウディオ・ラニエリ監督自ら話し、国際サッカー連盟のジャンニ・インファンティノ会長は「おとぎ話の実現」と表した。

 ◆立場変えるV

 何しろ創設こそ1884年と古いが、弱いクラブだった。03~04年シーズンに18位となり、下部リーグに降格。14~15年シーズンからプレミアリーグに戻ったものの、14位と低迷した。15~16年シーズンの開幕前、ブックメーカーの優勝掛け率は何と5000倍と示された。

 プレミアリーグは、イタリアのセリエA、スペインのリーガ・エスパニョーラ、そしてブンデスリーガと並び、世界最高峰の実力と人気を誇る。「BIG4」と呼ばれる4大クラブが存在、常に彼らの間で優勝を分け合ってきたといってもいい。

 ユナイテッドとシティのマンチェスター勢に、ロンドンのチェルシーとアーセナル。豊富な資金力を背景に優秀な選手を世界中に求め、高い戦力で勝ち、優勝賞金やテレビ放映権料、スポンサー収入などの富を得る。得た資金はまた選手獲得に生かす。富の偏在と回遊である。

 例えば、レスターの選手年俸総額は日本円で75億円ともいわれる。Jリーグのトップクラブであるガンバ大阪や浦和レッズは10億円強だから、額としては大きい。しかし、BIG4は340億円超のチェルシーを先頭に、みな300億円超だ。

 資金力が全てだとは思わない。しかし、富がクラブ、チームを強くすることは誰にもわかる。今シーズン、BIG4が監督交代など、そろってクラブ内の動揺に見舞われたことが影響したのかもしれない。

 レスターは優勝で、きっと大きく立場を変えるはずだ。

 英国放送協会BBCは「レスターは235億円の臨時収入を得る」と伝えた。内訳は優勝賞金とチャンピオンズリーグの放映権料の分配、入場料収入と関連グッズの売り上げ。さらにスポンサー収入の増大、料金据え置きが発表されているものの、ファンの拡大に伴う入場料収入増も期待できる。弱小クラブからの脱皮が可能となろう。

 レスターはロンドンの北約160キロに位置し、人口は約30万人。古代ローマ時代から存在する。日本人には秋篠宮家の長女、眞子さまが学ばれたレスター大学大学院のある町との印象はあるが、15年ラグビー・ワールドカップ会場だったことを覚えている人は少ない。

 その町がいま注目を集める。350億円の経済波及効果が期待できるという。奇跡が静かに広がる。輪の中心に岡崎慎司がいることをかみしめたい。(産経新聞特別記者 佐野慎輔)