(上) 「即決」促したゴーン氏 時間かかれば株取得額高騰の恐れ
1000万台の野望-日産・三菱自提携「カルロス・ゴーン氏(日産自動車社長)が三菱自動車を欲しがっている」
5月初旬。大型連休で閑散とする東京・霞が関でこんな情報がひそかに出回り始めた。ゴーン氏と三菱自の益子修会長が極秘裏に会談し、提携に向けた意思を確認し合ったのは、まさにその直前のことだった。
燃費データ不正問題で窮地に陥った三菱自を、救済に消極的だった三菱グループではなく日産が救う-。三菱自のみならず関連企業の経営や雇用の問題を懸念していた経済産業省幹部は、「これで再生の可能性が出てきた」と強い期待感を寄せた。
ただ、12日に資本業務提携を発表すると経産省が報告を受けたのは11日夜のこと。4月20日の燃費データ不正の公表からひと月もたたずに両社が合意したことに「あまりにも早く結論が出たもんだ」と同省幹部が舌を巻くほどだった。
ゴーン、益子両氏は、両社が平成23年の軽自動車事業で提携して以降、親交を深めていた。12日の記者会見では互いに「信頼できる」と認め合ったほどだ。
2人の会談後、すぐに両トップの特命を受けた少数のメンバーが集められ、連休返上で具体案の議論が重ねられた。
関係者によると、当初は6月下旬に開く株主総会を機に公表する段取りだった。三菱自の業績影響や同社の株主である三菱グループなどの理解に時間がかかるとみていたためだ。実際、同グループ内には、日産が三菱自の株式の34%分を2370億円で買い取るという内容に「金額が低い」との不満が出ていた。
そこに、ゴーン氏が「即決」を促した。同氏との信頼関係で三菱自の生き残りを図ろうとした益子氏はグループを急いで回り、11日に了承を取り付けた。
ゴーン氏はなぜ結論を急いだのか。経営に影響しかねない軽自動車事業の生産・供給を早期に再開させたいという焦りもあるが、三菱自の株価急落もあった。
三菱自の株価は問題発覚直前の半値近くまで下がり、経営を大きく左右できる3分の1超の株式をわずか2千億円超で握ることができるようになった。しかし、業務提携の噂が市場に広がれば、経営再建への期待から瞬く間に三菱自の株価が急騰し、取得額が高くなる恐れがあった。
ゴーン氏は13日、産経新聞などとのインタビューで「燃費不正問題で物事が加速した」と語った上で、「噂が流れたり、話が歪(わい)曲(きょく)されたりする危険があったので早く市場に発表したかった」と強調した。
不正で弱った三菱自をしたたかな交渉術で傘下に収めるゴーン氏。その豪腕で窮地の三菱自を再生に導けば、世界販売850万台強で世界4位の日産・ルノーグループを年間販売台数「1千万台クラブ」に導くのも夢ではなくなる。
「私どもは世界トップ3に入る実力がある」
12日の会見でこう言い切ったゴーン氏が三菱自との提携のその先に見据えるのは、「世界ナンバーワン」の称号だ。
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12日に資本業務提携を発表した日産と三菱自。提携の狙いや背景を検証する。
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