シャープ、引責辞任のない不思議 歴代トップの失敗が招いた身売り

高論卓説
シャープの高橋興三社長=12日、東京都港区(寺河内美奈撮影)

 シャープの高橋興三社長は自らの進退について12日の記者会見で、鴻海(ホンハイ)精密工業による買収資金の払い込み完了をもって辞任すると発表した。かねて予想されていたことだが、不思議なのは「引責」によるものとは認めていない点である。

 同日発表した2015年度連結決算では、純資産が312億円のマイナスになり債務超過に転落した。企業会計上、倒産状態を意味する。11年度以来、5年間の純損失は1兆3997億円余りに上る。

 その結果、シャープは台湾の鴻海に身売りせざるを得なくなったわけである。ところが12年に巨額の赤字見通しの中で退任した片山幹雄社長も、わずか1年3カ月で退いた後任の奥田隆司前社長も、みな「引責」を口にしなかった。

 12年に相談役に退いた町田勝彦元会長も責任を免れない。しかしここに至った経営について、歴代トップは誰一人として責任を明確にしていない。

 液晶事業への過大投資の直接責めを負うべき片山氏は社長交代の記者会見で、「社外を担当する」と会長職に意欲を見せていた。現在は日本電産の代表取締役副会長に納まっている。

 記者会見で片山氏と笑顔で握手を交わして引き継いだ奥田氏は、13年の社長退任の記者会見でこう述べていた。「私は経営再建を指揮する社長として最低限の責任を果たせたと思う」。「今日を新生シャープの初日として頑張って行く」と宣言までした。

 現在の高橋社長は1年目こそ黒字だったが、その後2年で合計4783億円余りの純損失を出した。追い詰められた同社は自立再建を断念して、鴻海の傘下に入ることになったわけである。

 記者会見で経営責任を問われて「2年連続、大幅な赤字で非常に申し訳ないと思う」と陳謝した。だが「今、私の責任は、自主再建は無理なので、鴻海との提携を予定通りクローズ(出資金払い込み完了)することだ」と付け加えた。

 今さら誰が悪かったのかと追及しても、シャープが元通りになるわけではない。しかし失敗の責任をあいまいなままにしたために、抜本的な再建策を打てずにずるずると来てしまったのではないか。

 同社が頂点を極める原動力になったのも、どん底に落ち込む原因になったのも、液晶部門である。前期決算でも最大の赤字は液晶パネル部門による。ここに早期にメスを入れていれば違う選択肢があっただろう。

 しかし「液晶の後も液晶」と言っていた片山氏はもちろん、奥田氏や今の高橋社長も液晶を柱に据え続けてきた。再建計画を立てても液晶部門の業績急落で水泡に帰す繰り返しだった。その揚げ句が身売りである。「撤退」を「転進」と言い換えて、身内をかばい続けて敗因分析を怠った旧軍部の失敗に似ている。

 高橋社長は「何がこうなった原因か、振り返っている余裕はない。何しろクロージングまで気を緩めるわけにはいかないからだ」と言う。言い逃れのように聞こえるが、素直に受け取ればゲームはまだ終わっていないのかもしれない。

 6月末と見込むクロージング、つまり出資金の払い込み完了までに、鴻海の郭台銘会長が何を言い出すのか不確定な要素が残っているのだろう。したたかな相手である。

 鴻海はシャープ側の責任で買収契約が壊れたら、液晶事業の譲渡を受ける権利を獲得している。際どい事情が潜んでいるのならば、責任問題にけりがまだついていないともいえる。

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【プロフィル】森一夫

 もり・かずお ジャーナリスト 早大卒。1972年日本経済新聞社入社。産業部編集委員、論説副主幹、特別編集委員などを経て2013年退職。著書は「日本の経営」(日本経済新聞社)、『中村邦夫「幸之助神話」を壊した男』(同)など。66歳。