シャープ社員の消えぬ不安 大規模リストラ視野…雇用維持じゃなかったの!?
シャープの経営再建のためとして、同社の買収を決めた台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業が、シャープ従業員の削減に踏み切る可能性が出ている。支援交渉の過程では、鴻海は雇用に配慮する方針を強調していたにもかかわらず、今では大規模リストラを視野に入れているもよう。6月末までに買収を完了して鴻海傘下で再出発するシャープだが、従業員の雇用不安は消えていない。
今月12日、鴻海の郭台銘会長とシャープ次期社長、戴正呉副総裁から、シャープ従業員向けに社内LANを通じて、人員削減の必要性を訴えるメッセージが送られた。ロイター通信によると「コスト削減なしに再建は実現できないことが明確になった。残念なことだが、コスト削減には従業員の削減を伴う必要がある」とし、慎重な表現ながら、人員削減の可能性を示唆していた。
郭会長は、支援交渉時の2月に「40歳以下の雇用を維持する」と語り、買収決定後に開かれた4月2日の会見でも「日本では最善を尽くして、全員(雇用を)維持できるようにしたい」と述べていただけに、波紋が広がっている。
関係者によると、シャープが28年3月期で債務超過に陥り、2期連続の最終赤字になった業績を踏まえ、鴻海側は早期の黒字化達成には、リストラが不可欠との考えを押し出している。削減数は決まっていないが、1千人を上回る恐れもある。ただ優秀な人材の流出を懸念し、引き止めのための新たな報奨制度を導入することなどをシャープ側に働きかけたという。
シャープの28年3月末時点の国内外グループ全体の従業員数は約4万4千人。国内は約2万人。経営悪化が鮮明化して以降、24年と27年にそれぞれ3千人規模の希望退職を実施した。
一方、シャープは12日、全世界で「最大7千人程度の人員削減」と記載した決算資料を午後3時頃に一時開示。約1時間後に誤りとして取り下げた。「事務的なミスで、人員削減を検討した事実はない」(広報)としている。ミスの詳しい経緯は明らかにしていない。
鴻海精密工業がシャープ買収を決め、4月2日に大阪府堺市で開いた会見。郭台銘会長の雇用などに関する部分での記者との主なやりとりは次の通り(産経WEST「シャープ・鴻海調印」の会見速報より抜粋)
--シャープの経営陣や従業員に今後どのように接するか
郭会長「難しい質問だ。どんな人でも、それぞれのポジションで価値がある。個人をみると優秀だ。しかし、シャープは製品ラインが多く、その全体の統括がうまくできていない。リーダーが優秀でないのではなく、すべてを見渡せるリーダーがいない。業務間の統合ができていない。適材適所になっていない。近く、そういったポジションの異動ということもあると思います」
《自信に満ちた表情の郭会長は英語で話し、はっきりと大きな声で記者の質問に答え続ける》
--今後、どのくらいクビにするのか
郭会長「鴻海では毎年、個人の業績をみて、やめてもらっている人が3~5%います。しかし、日本では、全員(雇用を)維持できるようにしたい。(今のポジションが)適職ではなかった方にももう一度チャンスを与え、残って頂きたい。適切なポジションを見つけるべく努力したい」
《郭会長が回答している間、高橋社長はまっすぐ正面を見つめながら、聞き入る》
--これまで交渉が二転三転してきたことをどう思っているか
郭会長「交渉が破談になるようなことはない。実行の確率では(99%のコンマの後も)9が並び続けるほどだと思っている。そして、これからの時代は(シャープ技術の)IGZO(イグゾー)だと思っている。このことを強調して、会見を終わりにしたい」
《シャープの高橋社長と鴻海の郭会長が肩を組み合う。光り続けるカメラのフラッシュが会見出口の扉に向かう2人を追う。予定より約50分長い約2時間40分にわたる会見が終了した》
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