菜七子人気、地方競馬にも恩恵 観客、売り上げ大幅増

 
岩手競馬で騎乗した藤田菜七子騎手=16日、盛岡競馬場

 競馬界が“菜七子フィーバー”に沸いている。日本中央競馬会(JRA)で2月、16年ぶりに誕生した女性ジョッキー、藤田菜七子騎手(18)はいま、ファンを最も競馬場に呼べる存在だ。スポーツ紙の1面を飾り、テレビのワイドショーも取り上げるなど知名度は全国区。集客力はJRAにとどまらず、地方競馬にも恩恵を与えている。

 月曜(5月16日)午前の岩手・盛岡競馬場。藤田騎手がパドックに姿を現すと「菜七子、頑張れ」と熱い声援が飛んだ。この日は岩手競馬で計7戦に騎乗し、地元の鈴木麻優騎手(20)との女性対決も実現した。紹介セレモニーは約1000人のファンが観覧し、応援に訪れた盛岡市の阿部牧子さん(33)は「久しぶりに競馬場に来た。同じ女性として頑張ってほしい」とエールを送った。

 藤田騎手は3月3日、川崎競馬での“ひな祭りデビュー”を皮切りに、地方競馬への精力的な遠征を続けている。2カ月半で高知、浦和、金沢、船橋を含めた6つの地方競馬で騎乗と引っ張りだこ。どの競馬場でも観客数、売り上げが前年実績を大きく上回った。

 レース名に「ようこそ藤田菜七子騎手杯」などと冠して歓迎した4月12日の金沢競馬では前年に比べて1.7倍に相当する3億6000万円を売り上げ、盛岡競馬場には2355人と前年の3倍近くの観客が詰め掛けた。

 地方競馬の2015年度総売り上げは4310億円。近年は回復傾向にあるものの、9862億円とピークだった1991年度の半分以下だ。岩手県競馬組合の高橋宏弥事務局長(56)は「これをきっかけに、岩手競馬を見たことがなかった新しいお客さんに興味を持ってもらえれば」とファンの新規開拓を目指す。

 愛らしいルックスと相まって、藤田騎手は本業以外でも注目度は高い。既に製紙大手のテレビCMに起用され、3月から芸能事務所ホリプロに所属。テレビ番組などへの出演依頼が数多く届いているという。ただ、実力よりも人気が先行する現状を本人は十分に自覚。「女性だからではなく、成績を残して注目してもらえるように頑張る」と地に足がついている。

 5月20日までの戦績はJRAが104戦3勝で、地方は38戦4勝と健闘。JRA女性騎手第1号として96年にデビューし、現在は競馬評論家の細江純子さん(41)は「私の時は一つの騎乗チャンスを得ることとの戦いだった。こんな時代が来たのかという驚きがある。彼女がいいスタートを切れたことがうれしいし、これをつなげていってほしい」と期待している。