セブン&アイにみる社外取締役の在り方

高論卓説

 ■ガバナンス機能か暴走か 評価は数年後

 26日に予定されているセブン&アイ・ホールディングスの株主総会で、長らく同社を指揮してきた鈴木敏文会長が退任する。代わってトップに立つのは、主力子会社であるセブン-イレブン・ジャパンの社長を務めている井阪隆一氏だ。

 2月に鈴木会長は井阪氏に「社長に就任以来7年、新しいことをしていない」という理由で降板を迫ったが、井阪氏はこれに納得しなかった。創業者である伊藤雅俊名誉会長も井阪氏を支持したため事態は膠着(こうちゃく)した。

 鈴木会長は3月に新設した指名・報酬委員会で井阪氏退任の人事案を取り上げたが、委員長である伊藤邦雄・一橋大学大学院特任教授ら社外取締役の反対で果たせなかった。「(セブン-イレブンの)最高益を続けた社長を辞めさせることは、世間の常識が許さない」というのが、伊藤教授らの反対理由だ。

 鈴木会長側は4月7日の取締役会で採決による強行突破を図ったものの、取締役15人(うち社外が4人)の過半数を得ることに失敗。取締役会の終了後、鈴木会長は自らの退任を決めた。

 経営共創基盤CEO(最高経営責任者)の冨山和彦氏は日経新聞のインタビューで「日本の企業統治史上に残る快挙」と評価した。トップの恣意(しい)的な人事を取締役会が阻んだことは、まさに企業統治がはたらいた好例だというのだ。

 一方で、社外取締役のトップ人事への介入に留保をつけるのが、オリックスのCEOを長く務めた宮内義彦シニア・チェアマンだ。

 1990年代から財界で企業統治(コーポレートガバナンス)の議論をリードしてきた宮内氏は「今回の決定に対する評価は何年かたたないと下せない。ここからセブン&アイの業績が伸びなくなれば大きな間違いだったとなる」と語る。

 宮内氏によれば、社外取締役が経営に待ったをかけるべきなのは業績が悪化しているときだ。株主の代理人として経営陣のはたらきを監視する社外取締役は、業績を改善できないトップをすげ替えるような局面でこそ動くべきだというのだ。セブン&アイの営業利益は5期連続で過去最高を更新しており、これには当たらない。

 「企業がイノベーションを起こすためには、社長以外の役員が全員反対してでもやるべき局面がある」と宮内氏は主張する。鈴木会長が「新しいこと」に挑戦する上で必要だとあれば、好業績を続けているといっても井阪社長の交代には理があるというわけだ。それは、鈴木会長率いるセブン&アイの業績が右肩上がりであることで正当化される。

 企業統治の強化は経営資源の最適配分によって会社の成長を促すのが目的だ。

 成長がミッションの経営者はイノベーション実現へできるだけ大きな裁量権がほしいと思うはずだ。一方で企業の成長という共通の目標を持ちつつトップを監視するのが社外取締役の仕事である。セブン&アイの経営波乱は、社外取締役の在り方について、議論を深めるための何よりの材料だ。

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【プロフィル】西村豪太

 にしむら・ごうた 「週刊東洋経済」編集長代理。1992年に東洋経済新報社入社。2004年から05年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。昨年12月に『米中経済戦争 AIIB対TPP』(東洋経済新報社)を上梓。46歳。