増える外国人採用 企業成長へダイバーシティー推進
視点□産経新聞経済本部編集委員・松岡健夫
少子高齢化による就労人口の減少に加え、雇用状況の改善で労働力不足に陥った企業が外国人の採用を増やしている。厚生労働省によると、外国人労働者は2015年10月末時点で過去最多の90万7000人と前年同期比15%増加しており、年内にも100万人規模に達する見通しだ。しかも労働力確保を目的とした外国人採用にとどまらず、海外進出や将来の幹部候補生として積極的に受け入れる企業も多くなっている。組織を活性化させるダイバーシティー(多様性)の観点からも人材の多国籍化が企業に求められる。
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焼肉やラーメン、お好み焼き、和食レストランチェーンを展開する物語コーポレーションが3月に開催した「外国籍内定者と配属先店長向け合同研修会」をのぞいた。
5カ国20人の新入社員が入場すると、着席していた20人の上司が一斉に立ち上がり盛大な拍手で迎えた。研修の目的を説明した後、外国籍内定者による自己紹介、小林佳雄会長による講話と続いた。
同社が合同研修会を始めたのは14年。前年の13年4月に入社した外国籍社員6人のうち4人が半年以内で退社、その後さらに1人が会社を去った。退職率は実に83%に達した。社内に衝撃が走り、これを機に徹底した社内ヒアリングを実施。それまで気づかなかった外国籍社員が抱える不安や、受け入れ側との意識のギャップの大きさが明らかになった。
外国籍社員の採用を始めた頃は「特別扱いしないこと」を重視し、日本国籍の社員と同等の教育・評価を行ってきたが、入社後の定着率は思わしくなかった。平等を意識するあまり、言葉の壁や文化・風習の違いなど外国籍社員が持つ固有の悩みに気づかなかったからだ。そこで3年前から外国籍社員に向けたフォローを厚くし、受け入れ側にも外国籍社員を採用する意図をきちんと伝えることにした。
すると効果はてきめん。14年4月入社の外国籍社員20人のうち退社は3人にとどまった。翌年は27人中3人と、退職率は11%に激減した。
その理由は、小林会長の講話を聞くことで理解することができた。外国籍とその上司の日本人とのトラブルでよくあることとして(1)なぜ「分かった」といったのに実行してくれないの?(2)なぜ「ありがとう」と言わないの?(3)なぜ謝るべきときなのに謝らないの?(4)なぜ上司や年配者でもタメ口なの?-を挙げた。
(1)についての解決策は、日本人のように「言えば分かる」わけではないので、上司は具体的に分かりやすく伝える必要があると指摘。(2)は相手に習慣がないうえ、日本人は指示命令が下手と一刀両断。(3)と(4)は教えるしかないと明解だ。
ただ相手が外国人だから、こうしたトラブルが起きるとは言い切れない。部下が日本人でも当てはまるからだ。「最近の若い者は」は年配者の常套(じょうとう)句ではないか。トラブルが起きるのは「やるべきことを具体的に言えないリーダーに問題がある。それはダメリーダーでしかない」と小林会長は言い切る。その上で「違いを認めることが大事であり、多様性を持った『物語コーポレーション』でありたい」と強調した。企業成長にはダイバーシティーが欠かせないというわけだ。
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そもそも外国籍社員を採用したのは、自分の意見を素直に伝えるという外国文化を取り入れることで社内に化学反応を起こしたいからであり、さまざまなバックボーンをもつ人間が集まることで成熟し魅力的な組織をつくりたいからだったという。
就労人口の減少は外国人にとどまらず、高齢者や障害者の雇用を間違いなく企業に促す。育った時代や環境が違うので、自分の意見、考えと異なるということが普通になってくる。言い換えると、自分の考えを具体的に伝えるという日本人が苦手とする文化への挑戦が求められる。日本人の常識は外国人からみると非常識に映るかもしれない。ダイバーシティーは、外国人に「郷に入れば郷に従え」と教えているわけではなく、日本人にムラ社会からの脱出を促しているわけだ。それが企業価値の向上をもたらすのは間違いない。
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