今こそ、九州に!

ビジネスアイコラム

 ■旅行でも支援でも 厳しい状況だからこそ

 九州新幹線が全線での営業運転を再開してから27日でちょうど1カ月。本来なら博多(福岡県)-鹿児島中央を最速1時間17分で結ぶ。一部区間で速度を落として運転するなど今も地震の影響は残り、鹿児島出張からの帰りに利用した列車は2時間10分あまりを要したが、大動脈はしっかりと九州を南北につないでいる。

 震度7を2回記録した熊本地震は、交通インフラがいかに重要であるかを再認識させた。地震で九州新幹線、九州自動車道とも約2週間にわたって一部区間が不通となった。空の玄関口である熊本空港もターミナルビルが損壊し、一時閉鎖された。

 熊本に支援に入りたくても交通手段がなく、もどかしい思いをした人も少なくなかったはずだ。主要な交通インフラの復旧は、厳しい状況の中でも九州の人たちを元気づけたに違いない。

 熊本地震は九州の主要産業の一つ、観光にも大きな影響を与えた。発生直後、宮崎県庁の観光担当者が「九州全体に影響が出るのではないか」と風評被害を心配していたが、懸念した通り、予約客のキャンセルは熊本、大分以外にも広がっている。

 長崎県佐世保市のハウステンボスは、熊本地震の発生から約1カ月で入場者の団体予約キャンセルが2万6000人、敷地内にある直営ホテル4カ所の予約キャンセルが1万5000人にのぼった。宿泊客のキャンセルは、地震の被害を受けていない九州各地の宿泊施設で確認されており、民間シンクタンクの九州経済調査協会は九州域外からの旅行客が減少することで、今年度の観光消費が約360億円減少すると試算している。

 九州域外から旅行客を呼び込むために、不可欠なのが交通インフラだ。通常ダイヤより1時間余計に時間がかかろうと、一部区間が対面通行で渋滞しようと、新幹線や高速道路を普通に利用できることが何よりも大きな力になる。

 熊本・阿蘇を訪れる観光客に人気が高い北外輪山の大観峰を先週末に訪ねたが、駐車場には他県ナンバーの車やバイクが目立っていた。売店のスタッフは「休日で、これだけ天気がよいと、地震前ならもっとお客さんが来てくれたんだけど…」と表情は硬かったが、九州自動車道の全線復旧が大きな役割を果たしているのは間違いない。

 23日には地震発生後初めて、九州新幹線を利用して、大阪の中学生が修学旅行で鹿児島を訪れた。

 大観峰からの眺望は見事だったが、眼下に広がる阿蘇市街にはブルーシートが点在していた。もっとも被害が大きかった益城町では今なお倒壊した家屋がそのまま残る。こうした状況では「九州に旅行するのは不謹慎なのでは」と考える人がいてもしかたがないことだ。だが、「来て楽しんでいただくことが九州のためになる」という福岡市の高島宗一郎市長の言葉は、九州に住む多くの人の気持ちを代弁している。

 旅行でもいい、被災地の支援でもいい。厳しい状況だからこそ、九州に来てほしい。そう、道はつながっているのだから。(産経新聞社西部本部副代表 高橋俊一)