大成建設、ホップの力で汚染地下水を浄化 有益微生物の活性化技術

 
地下水浄化工事の様子。深さ10メートルの井戸を50平方メートルに1本の割合で掘り、土壌細菌の栄養分を流し込む

 ビールの原料に使われる「ホップ」のエキスを地中に注入し、有害な化学物質で汚染された地下水を浄化する新技術を大成建設が開発、特許を取得した。「塩素化エチレン類」を分解する特定の土壌微生物を活性化し、これまでより短い期間で浄化することが可能になる。10年余りの研究を経て、近く実際の浄化工事に導入する予定。独自の技術を強みに受注拡大を目指す方針だ。

 井戸から地中へ栄養分

 新技術が対象とする塩素化エチレン類のうち、「テトラクロロエチレン」などは金属部品の洗浄やドライクリーニングなど幅広い産業で使用されているが、発がん性が指摘されている。環境省の2014年度の調査では、全国256市町村の井戸で環境基準を超える値が検出された。工場跡地の再開発事業などで浄化が必要となるケースが多い。

 例えば東京・築地から10月に移転する豊洲新市場(江東区)。ここは以前、石炭ガスの製造工場が稼働していた。浄化工事は、環境基準を超える汚染が見つかった約3ヘクタールに、直径10センチほどの細い井戸を3000本近く掘って行われた。この井戸から、土中に生息する「デハロコッコイデス属細菌」の栄養となるアミノ酸などを定期的に流し込み土壌に浸透させる。それにより細菌を増殖させ、塩素化エチレン類の分解を促すという仕組みだ。

 こうした浄化工事は1990年代後半から広がった。現在、国内の市場規模は年間1000億~2000億円。大成建設は土壌を掘り返さずに施工する「原位置浄化」の手法に強く、毎年100億円前後を受注。97年に石油汚染土壌の微生物浄化を国内で初めて手がけたほか、シアン化合物などの浄化でも同業他社に先んじた。

 ただ塩素化エチレン類の浄化では後れをとった。土壌に注入する栄養素として酵母を用いた他メーカーの製品を使っていたが、この製品は無関係な微生物も増やすため「デハロ菌」の増殖に時間がかかるのが課題だった。

 研究で特許抵触回避

 そのため大成建設は2005年ごろから、代わりに利用できる栄養素の研究を土木技術研究所(横浜市戸塚区)で進めていた。

 「ベースとなる有機物は、廃糖蜜やパン酵母など約30種類を試しました」と苦労を話すのは、研究リーダーの高畑陽主席研究員。食品会社などから提供された各材料に、有機酸や無機塩類などを組み合わせ、デハロ菌の増殖に最適な配合を数百種類の中から探し出すという地道な作業が何年も続いた。

 その結果、ビール酵母エキスを使った場合、組み合わせにかかわらず高い効果を得られることが判明した。

 しかし、他社製品は「酵母によるデハロ菌の活性化」で特許を取得していたため、単にビール酵母エキスを用いるだけでは、この特許に抵触してしまう。そこでビール酵母エキスのうち、どの成分が効くかを研究。最終的に、それが「ホップ」と突き止めた。

 ホップに含まれるα酸などの苦み成分は、乳酸菌などへの抗菌作用を持つことが知られている。高畑氏は「ホップの抗菌作用がデハロ菌以外の微生物に働くことで、デハロ菌の効果的な増殖に役立っているようだ」と解説する。

 このホップエキスを使えば、1万立方メートルの大規模な汚染でも半年から1年程度で浄化が可能だ。数年かかるのが当たり前だった工期を大幅に短縮できる。大成建設は今後、デハロ菌がいない土地にデハロ菌を導入する手法も実用化するなど土壌や地下水の浄化技術に磨きをかけていく計画だ。(山沢義徳)